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そうだ。奴隷を冒険者にしよう  作者: HATI


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第53話 創世王教の司祭

 アズとエルザ達と火の番を交代する時間になり、主人とアレクシアは洞窟の奥に行った後離れて毛布をかぶって休む。

 焚き火により空気は温められているが、地面は冷たい。

 下に毛布を敷いているが、寝づらいのか寝息が聞こえるまで時間があった。


 アズが主に焚き火の管理をする。

 エルザは修道服を着ており、手首まで紺色の袖で覆われている。

 この服装で焚き火に近づけば火の粉で服に穴が開く。


 少し焚き火を崩して枝を追加し、焚き火の火が安定する。


「アズちゃんこっちこっち」


 一区切りついたことを見届けたエルザはアズを自分の膝上に招いた。

 アズは素直にそこに座ると、エルザは膝に座ったアズを後ろから抱きしめる。


「ありがとねー」

「いえ、別に大したことじゃないですし」

「ふふ、最初より大きくなったねぇ。成長期だからかな」

「そうですか? そういえば最近服が小さくなったような気が……」

「ご主人様に頼んで新しく買おうね。下着も合わないと大変だから、それも」

「でも……」


 アズは少しだけ悩んでいた。

 エルザはそんなアズを抱きしめながら頭を撫でる。


「必要経費だーって言えば買ってくれるよ。そんなところでケチる人じゃないでしょ」

「それは……そうだと思います」

「アズちゃんは最近活躍してるからねー。立派な稼ぎ頭だ」

「私、役に立ってますか? もう、捨てられたくないんです。此処にいて良いんですよね」


 アズがそう言うと、エルザがより深く抱きしめて、アズの顔の隣にエルザの顔が来る。

 甘い匂いがアズの鼻腔をくすぐった。


「ご主人様は一度でもアズちゃんを要らないって言ったことがある?」

「ないです……けど、役に立たなきゃ。私の価値を証明しなきゃダメなんです」


 最初の主人の言葉をアズは思い出した。

 費やした金の価値があることを証明しろと、主人はアズに言った。


「そうだね。でも、あのご主人様は自分の道具を大事にする人だよ。ベルトは擦り切れるまで使うし、靴なんて穴があくまで履くような。簡単に私達を捨てるような人じゃないよ」

「ただの道具は……一度買えばあとはお金がかからないですよね。でも私達はご飯も食べるし、冒険者の仕事だって準備にお金が要るのはもう分かります」


 金勘定に疎かったアズだが、主人への報告や主人が準備する装備や資材。流石に冒険者として過ごしている過程で嫌でも理解してきた。

 冒険者としては、相当恵まれている立場だという事も。


 金が命を左右する。アズがかつて貧困に喘いでいたのも、村にも家族にも金が無かったからだと今なら分かる。

 主人の金があるから今のアズは問題のない生活を送れているのだ。


「不安なんだね。そういえばアズちゃんには祈る神様が居なかったかー」

「はい。村ではよく分からない石に祈ってて怖かったです。あそこで助けてくれる人は誰もいなかったし……今まで生きてきてご主人様が一番よくしてくれます」

「だから捨てられたくない?」

「そう、ですね。もう嫌です。私がいない様に扱われるのは嫌です。私はちゃんと生きているのに。此処にいるのに」


 アズはそう言いながら顔を伏せた。

 エルザは震えるアズを抱きしめる。

 母の様に、あるいは姉の様に。


「怖いんだね。だから、一生懸命に進んでるんだね……」

「私にはエルザさんやアレクシアさんみたいな特別な何かはありません。多分、簡単に替えがきくんです。私より価値がある人が居たら簡単に交換されるんです」

「人は誰もが特別、なんて説法は聞きたくもないか。これは余裕がある人が聞くものだしねー」


 そういっておどけたエルザを見てアズは少しだけ笑った。


「そんな事を司祭様が言っていいんですか?」

「いいのいいの。私を咎める人もいないし。なんせ創世王教の司祭はもう私以外居ないからね。これは誰にも言ってなかったんだけど」

「そうなんですか? 隠れて布教しているとか、そういうんじゃなくて?」

「そうだよ。アズちゃん。私以外に創世王教の司祭を名乗ったら偽物だって覚えておいてね」


 エルザの雰囲気が少しだけ変わる。

 カタコンベで見たような、普段の温和な雰囲気に、どこか冷たい気配が混ざるような。


「皆死んでしまった。灰王は国ごと忠を尽くして化生と成った、最後の使徒も遂に居なくなった。それでも太陽神は依然として存在する」


 普段のエルザとは違う口調だった。淡々とした冷たさを感じる。


「エルザさん?」

「外から神が来ることは別にいい。バルバトイは共存できた。でもあれは神じゃない。神ならざる者が神を騙り、人を弄ぶことは……決して容認していない」


 エルザがアズを抱きしめる力が強くなる。


「エルザさん、痛いです。力が……」


 アズがそう言うと、エルザはハッとする。

 そして右手を口に添えて口元を隠した。


「ごめん。痛かったよね。変なこと言っちゃったね」

「いえ、平気です」



 既に普段のエルザだ。

 創世王教と太陽神教の確執は相当に深いようだった。


 温厚なエルザがこうして感情をむき出すほどに。


 それからは少し話す程度でゆっくりと過ごした。

 アズの不安が消えることは無いが、エルザとの会話でその不安が大きく和らぐのをアズは感じた。


 アレクシアならしゃんとしろ、で終わるだろう。

 それはそれで確かにそうだとアズは納得するのだが。



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