第9話【囁くもの】
「最近、変なアカウントが話題になってるの知ってる?」
昼休み、遥がスマホを見せながら言った。
「#結び目の予言 ってタグ、昨日から一気にバズり始めたの。ほらこれ」
つむぎと心哉が覗き込むと、謎のアカウント『@MUSUBI-NO-MIKOTO』による投稿が並んでいた。
『舞ヲ拡ゲヨ。言葉ヲ捨テヨ。覚醒ノ時ガ来タ。』
『コトバヲ超エテツナガルトキ、新ノ平和が築カレル』
「なにこれ……気味悪いな」
心哉が眉をひそめる。
「でも、なんか詩みたいで面白いよね。意味わかんないけど」
つむぎは軽く笑って答えた。
遥はスマホをスクロールしながらぽつりと言う。
「このアカウントが出てきてから結び目教に入信する人が増えたみたい」
「まさか……結び目教の仕業なのか?」
「それはわからない…」
つむぎはスマホを眺めながら、何か引っかかるものを感じていた。
(この言葉……どこか、知ってる……?)
その夜。
アカウント『@MUSUBI-NO-MIKOTO』は、また投稿した。
『輪ノ拡ガリハ誰ニモ止メラレナイ。意識ハ結バレタ。』
画面を見つめるつむぎの顔に、うっすらと笑みが浮かぶ。
でもその笑みは、彼女の意識の表層では気づかれていない。
(……誰かが、私を通して話してる?)
ベッドに横たわりながら、つむぎは自分の指が勝手にスマホを操作しているのを見つめていた。
画面には、まだ公開されていない“次の投稿”の準備が進んでいる。
彼女は、ただ目を見開いて、それを見ていた。
「……これ、私がやってるの?」
画面の下、アカウント名の入力欄に、ゆっくりと打ち込まれていく。
『@MUSUBI-NO-MIKOTO』