第8話【土器土器ダンス】
放課後の教室。
つむぎはひとり、スマホに向かって踊っていた。
手の角度、足の開き、腰のひねり。
それは“土偶ダンス”をベースにしながら、さらに複雑な動きを加えたものだった。
「……よし、次は“土器土器ダンス”っと」
ポーズの名前にすら、もう照れはない。
どこか、自分でもない誰かに踊らされているような感覚が、心の奥にこびりついている。
「いいねこの動き……器を回すような手の所作。火焔土器のスパイラルをイメージして……」
無意識のうちに口に出た言葉に、自分で驚いた。
「……なんで知ってるの、私」
放課後の廊下で、心哉が言う。
「なあ、最近ちょっとおかしいぞ、つむぎ」
「え、なにが?」
「恥ずかしくないのか?お前そういうの1番嫌いって言ってただろ・・・」
つむぎは目をそらし、笑ってごまかした。
「そ、そんなこと言ったっけ?」
廊下の奥。
はるかがスマホを見ながら小さくうなずく。
「#土器土器ダンス……10万再生突破」
真新しいダンスに、同調するように踊る高校生たちの動画が次々と投稿されている。
手首を回し、腰をひねり、両腕を広げる――それはまるで、儀式のよう。
“舞”がどんどん拡がっている。
その夜、つむぎの枕元でまたスマホが点滅した。
『記憶ハ、さらに編マレル』
夢の中。
巨大な縄で編まれたような構造物の中を、彼女は歩いていた。
無数の目。
何百、何千という“誰かの意識”が、つむぎを通じてこの世界へと染み出してくる。
朝になっても、その感覚は消えなかった。
教室に着いたつむぎは、ぼそっとつぶやいた。
「次の段階へ移行する」
自分でも、なぜそれをつぶやいたのかわからなかった。