第6話【拡散】
翌朝
つむぎはいつもより少し早く学校に着いた。
昨日の遺跡での“あの感覚”が、まだ身体の奥に残っている。
誰かの記憶の様な言葉ではない情報、何かと“繋がった”という感覚。
でも、うまく説明はできない。
夢だったのかも、と思いたくなるくらい、曖昧で、不確かで――でも、確かだった。
昼休み。
「ねえ、昨日のあの土器の欠片……写真、撮ってたよね?」
つむぎが唐突に言い出した。
心哉と遥が顔を見合わせる。
「え? ああ……撮ってたけど」
「せっかくだし、SNSに上げてみようよ。今、土器とか土偶とか流行ってるし、けっこうバズるかも」
心哉が少し眉をひそめる。
「……なんで?」
つむぎは一瞬だけ言葉に詰まり、でも軽く笑って返す。
「なんとなく。今なら“流れ”に乗れる気がして。
あの模様とか、やっぱり妙に印象に残ってるし……変だよね。自分でも」
心哉がスマホを取り出し、写真を見せた。
昨日の夕方の薄暗がりの中、土の中から覗くあの文様。
つむぎは思わず画面を指で拡大した。
「これ……私の記憶に刻まれてる模様と同じだ。」
心哉が不安そうに見つめていたが、遥は確信を得たような表情を浮かべていた。
「じゃあ、アップしよっか。“#結び目の記憶”とかタグつけたら面白いかも」
放課後。
その写真は、10分で100リツイート。
30分後にはコメントが300件を超えた。
「なにこれ、模様が脈打ってるように見える」
「また“見ると夢に出る系”か。やば」
「この投稿、他の“文様”と何か違う……」
つむぎは、通知の嵐を見ながら、なぜか胸の奥が温かくなるのを感じていた。
(あ、広がってる。繋がってる……)
理由はわからない。でも、それが正しい気がした。