第5話【遺跡探索】
放課後の空気には、まだ冬の冷たさが残っていた。
つむぎと心哉が下駄箱の前で靴を履き替えていると、遥が静かに声をかけてきた。
「ねえ……ちょっと寄り道してみない?」
つむぎは遥の目を見た。
普段冷静で、どこか人を一歩引いて見るような子が、珍しく少しだけ熱を帯びている。
「家の近くにうちの山があるの。その斜面に、何年か前の土砂崩れで昔の“遺跡”みたいなものが見つかったの。
発掘依頼すると面倒だからっておばあちゃんがそのまま放置してるんだけど、器の形状から縄文時代のものだと思うんだよね」
「私が縄文時代に興味持ったきっかけもこの遺跡の発見からなの」
つむぎはその言葉に、なぜか心が引き寄せられた。
小さな山道を登る途中、3人は口数少なく歩いた。
鳥の声も遠く、時折風が木々をゆらす音だけが耳に届く。
「こっち」
遥が細い獣道を指差す。
しばらく進むと、急に空気が変わった。
湿った土の匂いが濃くなり、岩が露出した一角に出る。
その隅の地面が、少し崩れていて、何かが土の中からのぞいていた。
「……これ」
遥がしゃがみ込み、そっと指を差す。
土の中から半分だけ顔を出しているのは、褐色のかけら。
くすんだ表面で、縁に緻密な文様が刻まれている――土器だ。
つむぎは自然と膝をつき、手を伸ばした。
(なんで……こんなに気になるんだろう)
指先が、欠片に触れた。
次の瞬間――
どん、と重低音が胸を打った。
視界が一瞬、反転したように歪む。
音も光も温度も、自分の感覚がすべて遠く離れていく。
焼けるような太陽。
草の匂い。
裸足の足が、土を踏む感触。
頭の中に様々な情報が入り込んでくる――
(これ……なに?記憶?)
つむぎはがくりと地面に手をついた。
「つむぎ!」
心哉の声が遠くで響いた。
呼吸が乱れ、心臓が早鐘を打っている。
頭の奥で、誰かの声が響いた気がした。
「――目覚めよ。記憶は紡がれた」
しばらくして、つむぎはうつ伏せのまま、ゆっくりと息を整えた。
「……大丈夫。ちょっと……立ちくらみしただけ」
遥はその光景を黙って見ていた。
何か期待を込めたように。