第16話【偽りの器】
春の心地よい風が心哉と遥の背中を押し、ふたりは遺跡へたどり着いた。
「ここから始まったんだよな」
「ほら、さっさと土掘って」
「ちょっとは浸らせてくれよ…」
「はいはい。早く助けたいんでしょ」
心哉は遥の言葉で我に返り、黙々と土を掘り始めた。
袋いっぱいに土を詰め込み一息ついていると、遥が移動するよと心哉を急かした。
遥の案内で森を抜けたところにポツリと佇む古民家へ着いたが人の気配はない。
「おばあちゃん今は旅行中なの」
遥は不安そうにしている心哉へ説明する。
「さぁ、さっそく取り掛かるよ」
木の床にブルーシートを敷き、土器づくりに取りかかっていた。
手には、縄文時代の地層から掘り出された、重く湿った粘土。
「これが……記憶を繋ぐ“土”か。」
心哉は両手で粘土を持ち、じっと見つめる。
その手が、わずかに震えていた。
「まずは底を作るの」
遥の声は落ち着いていた。
「粘土を丸めて平らにして、しっかりと基礎を作って。その上に、細長い粘土紐をぐるぐる積み重ねていく。そう、1段ずつ」
ふたりは静かに作業を進めた。
指先で紐状の粘土を巻き、指やヘラでしっかりとつなぎ目をなじませる。
心哉の額には、いつの間にか汗がにじんでいた。
「これに“ウイルス”を込めるって、どういう意味なんだよ……」
つぶやいた声に、遥は手を止める。
「“想い”よ。つむぎへの気持ちを、粘土に込めて」
「……気持ちを込めるって、そんな簡単に言うけど……」
心哉は作業の手を止め、粘土を握りしめる。
「どうやって……込めればいいんだよ」
遥は真正面から見つめて、言った。
「好きなんでしょ。あの子のこと」
「……!」
言葉が喉に詰まる。
「だったら、その想いをこの“器”に詰め込むの。見返りなんていらない。伝えたいこと、2人で話したことを思い出してね。」
心哉はゆっくりと深呼吸し、また粘土をこね始めた。
彼の手の動きは先ほどより力強く、迷いがなかった。
「……戻ってきてくれ、つむぎ」
静かな時間が流れる。
表面をヘラで整え、文様を刻んでいく。
縄で模様を押し付けたり、貝殻を使ったりしながら、ひとつひとつに祈るように。
「これで形は整ったわね。あとは乾燥、なんだけど」
遥は土器を見つめながら、ぽつりと言った。
「普通は1ヶ月くらい日陰で乾かすの。」
「1ヶ月!?そんな待てないぞ…」
心哉が目を見開く。
遥はにやりと笑った。
「まぁ、今回は“偽物”なんだから、焼いて割れちゃってもいいの。さっさと焼きましょう」
夜、裏庭。
ふたりは野焼きの準備を進めていた。
木の枝と落ち葉を積み、土器をその中に埋めて、火を灯す。
真っ赤な炎が、闇の中で静かに揺れていた。
土の中の想いが、音を立てて焼き上がっていく。




