第15話【無言の浸食】
都市の夜景は変わらず煌々と輝いていたが、その下で確実に世界は変わり始めていた。
SNS上では、言語による投稿が減り、動画や意味不明な動き、ダンスだけが延々と流れ続けていた。
若者たちは無言でその動画を見つめ、同じ動きを真似し、互いの目を見つめるだけで“理解”し合っているようだった。
言葉は不要。感情すら統一された世界。
繋がることこそ、正しい。
その“空気”が、学校、街、ネットの中に静かに、しかし確実に浸透していた。
「この世界が怖い」
ある配信者が、小声でカメラに向かってそう言った。
「昨日、言葉で喋ってるってだけで、友達に睨まれた。俺、間違ってるのかな……」
そのコメント欄には、意味不明な絵文字と記号、そしてひとつだけ、明確な言葉があった。
"繋がれないなら、存在する意味はない"
自治体の広報は静かに警告を出し始めていた。
「若者の間で急増する“無言行動”に関する注意喚起」
「集団での“意味のない動き”を模倣する現象。反社会的な傾向は見られないが、
周囲と“繋がれない”個人が孤立し、精神的不安を訴えるケースが増加中」
街頭ビジョンには、静かに踊る集団の映像が流れていた。
彼らは微笑みながら、ただ繰り返す。
ゆるやかな手のひらの円。
腰を落とした姿勢。
そして、右手で胸をなぞるような仕草。
つむぎは、画面の向こうの反応を見て、ただ笑っていた。
もう、何も言わなくても伝わる。
言葉なんて、最初からいらなかった。
そう。
最初から――。
繋がることで、すべてが満たされる。
ただ一つ。
まだ、あの“声”だけが。
どこか遠くで、自分を呼んでいた。




