第14話【ウイルスの器】
静かな図書館の一角で、ページをめくる音だけが響いていた。
心哉と遥は、机を挟んで向かい合っていた。
「ねえ、心哉くん」
遥がふと声を落として言った。
「ネットワークを壊すには、何が必要かわかる?」
心哉は一瞬言葉に詰まった。
「……え? 電源? 情報源を断つ? SNSの遮断……とか?」
遥は首を横に振った。
「違うわ。答えは“ウイルス”」
「ウイルス……って、コンピューターウイルス?」
「そうね。ただ、もっと根源的なもの。縄文のネットワークは“意識”そのものに近い。
だから必要なのは……その意識にとって“異質”なもの」
「異質……それがウイルス?」
遥は静かに頷いた。
「そう。そして、そのウイルスを入れるためには“器”がいるの」
「器……それが記憶を繋ぐ土?」
「そう。記憶を繋ぐ土。縄文時代の地層の土で作られた土器は、意識ネットワークの“端末”になる。
私たちはそれを真似て偽物の土器を作る。その土で作った土器の中にあなたの“ウイルス”を込めるの」
「……俺の、ウイルス?」
「そう。つむぎに向ける“気持ち”を込めて」
「気持ち……って、そんなのでいいのか?」
遥は微笑む。
「それしか、ないの。縄文のネットワークは、言葉ではなく“意思”で繋がっていた。
だからこそ、あなたと紡いだ言葉、あなたとの記憶はつむぎにとって特別なもの。それは最大の異物になる」
心哉はしばらく黙っていた。
思い返すのは、笑うつむぎ、泣きそうになったつむぎ、
そして、どこか遠くへ行ってしまいそうな、今の彼女。
「……わかった。やるよ。でも、なんでそんなこと遥にわかるんだ?」
遥は意味深な笑みを浮かべた。
「そんなことより助けるのが先でしょ」
「まぁ、そうだな…じゃあ、材料を集めに行こう。」
「縄文の地層が露出してる場所、あの始まりの場所に行きましょう」
心哉もゆっくり立ち上がる。
(俺の気持ちで……つむぎを“連れ戻せる”なら……)




