第10話【違和の芽】
教室の空気は、どこか浮ついていたが何故か誰も言葉を発していない。
心哉は無言で弁当をつついていた。
その隣で、つむぎがスマホをいじりながら満面の笑みを浮かべている。
「ねえねえ見て! “#火焔の舞”って新作、今朝投稿したばっかなんだけど、もう5万再生超えてるの!」
「前回の土器土器ダンスでも意識した火焔の動きをさらに昇華させたバージョンなの!」
「……なあ、つむぎ」
心哉がゆっくりと声を出す。
「最近、なんか変だぞ。お前」
「えー、なにが?」
つむぎは笑顔のままだ。
「まるで別人みたいだ」
その言葉に、つむぎは一瞬だけ目を伏せる。
でもすぐに、明るく笑った。
「もう、またそんなこと言って。私、前から変だったじゃん」
「違う。もっと、こう……“中身”が、違う気がするんだ」
一拍置いて、つむぎは小さく呟いた。
「中身って、誰の中身のことかな……?」
心哉は思わず息を呑んだ。
その声は、確かにつむぎのものだった。
でも、そこに宿っている“誰か”を感じてしまった。
放課後。
つむぎは帰り道の公園でひとり踊っていた。
誰もいないブランコの前。
カメラを自分に向けて、手を滑らかに動かし、足を地面に刻み、旋回する。
まるで――何かを“呼び込んでいる”かのように。
その夜、スマホがまた勝手に点滅する。
『記憶ノ輪、三重ニ編マレル』
つむぎはベッドの上でつぶやいた。
「もうすぐ。“新の日本の目覚め”が始まるんだよ」
その声は、確かに彼女のもので、
でも、同時に彼女だけのものではなかった。




