第1話【縄文ブーム】
教室のざわめき。窓から差し込む朝の光。
いつも通りの月曜日。
桐生つむぎ(きりゅう つむぎ)はノートを開きながらぼんやりと考えていた。
「なんか……最近、みんなの話が変なんだよな」
クラスメイトがスマホを見ながら話す声が耳に入る。
「ねえ、この縄文ブームマジでやばくない?」
「TikeTalkであがってた土偶の動画めっちゃ可愛かったよね!」
「見た見た!あのフォルムたまんないよね!」
つむぎは目を伏せながら呟いた。
「縄文?なんで流行ってるんだろね…」
隣の席に座っている高森心哉もいぶかしげな顔をして話を聞いていた。
心哉はつむぎの幼馴染でなぜかずっとクラスが一緒だ。
「オレもなんか変だと思ってた。意味わからんブームだよなぁ。」
帰り道、心哉とたわいもない話で盛り上がっていた。
つむぎはこの時間がとても好きだった。
「縄文時代ってそう言えば、土器とか土偶以外のことなんも知らないかも」
「縄文時代って、教科書にもろくに載ってなかったよな。1ページか、2ページくらい」
「そうだっけ?もうそんなことも忘れちゃったな」
「俺は縄文なんかより明治維新とかの方が好きだからさ」
「確かに心哉は分かりやすい漫画みたいな話の方が好きだよね」
「おい、今馬鹿にしただろ」
「ふふ。してないって」
その時、つむぎのスマホに突然、謎の通知が来る。
『記憶ハ紡ガレル』
目の前が揺れ、周囲の音が遠くなる。
「な、なにこれ……?」
心哉は眉をひそめた。
「どうした?」
「スマホに変な通知が…ほらこれ」
心哉は目を細めてスマホを見たが、画面には何も表示されていない。
「なんも来てないけど…」
「え…?」
「まったく…土偶の話なんかしてるから…」
夕焼けがじわりと滲んで、まるで世界がゆっくりほどけていくようだった。