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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

令和から戦国来たらバイオレンスすぎて俺の身がもたない。

作者: 白星埒雄

時は戦国、安土桃山時代。

朝廷の権威は地に落ち、各国の大名が天に覇を唱えんとしのぎを削っていた。



...のは、ホントに上の人間の話である。



「引け!引けぇえええい!」


動乱の時代の最中、初陣で敗北を喫した一人の若者がいた。


情勢を察知した武士の号令で、泥まみれになりながらも敵に背を向け、逼迫した表情で一目散に、己の命を守っていた。


「うああああああ!死にたくねぇぇええええ!!!というか、こんな時代でやっていく自信ねぇええええ!!!」


その若者の顔つきと発する言葉は、何処か浮世離れしていた。


若者の名をアキラという。

生年西暦2007年。平成の世に生まれ、令和を生きようとし、安土桃山に時空転移した、普通にちょっと可哀想な青年であった。


「こっち来るなあああ!死にたくねぇえええ!!!!!」




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





日も暮れだし、戦の号笛が鳴り止んだ頃、アキラはようやく自陣に舞い戻った。


「だあぁっ...死ぬかと思った...。」


令和の世では至極有り得ぬ命のやり取りを眼の前にして、あとめっちゃ走ったのもあって動悸が止まないアキラ。

そんな彼を見かねて、男が一人話しかけてきた。


「ご苦労さん。あんた初陣なんだってな。この戦国の世じゃ生き延びてるだけ偉いってもんだ。」


「あ、あんたは...?」


「俺もあんたと同じ足軽だよ...。ちょっと前まで米作ってたけんど女房食わすには銭が足らんくてね...。 あんた、生まれは?」


「東京...っつっても通じないか。えーっと、江戸から」


「これまた田舎から来たもんだな。...おっ夕餉出来るみてぇだぞ、行こうや。」


(この時代の江戸って田舎だったんだ...)


江戸が栄えだしたのは豊臣の天下泰平が成った後の出来事である。

この男、日本史が苦手なのであった。



鍋に見立てた陣笠がぐつぐつと汁を揺らす。

また死線をかき分けたであろうこの配給係の苦労も偲びながら、御椀を手に乗せ、飯を受け取った。



「この芋がらがまた美味いんだなこれが。ほれ食ってるか若いの。」


「え、えぇ...」


(味噌の味が濃い...白いご飯が食べたい...。)


『酒が来たぞ!順次受け取れー!』


「おっ来たなぁ!おめぇも呑むか!」


「い、いや俺まだ未成年...!」


「...」


「...」


顔面傷だらけの先輩の視線が嫌と言うほど痛い。

男らしさを地で行くこの時代、酒が飲めぬ下戸は嫌な顔をされるのが常であった。


一応この時代なら酒が呑めるアキラも、流石に自らの常識には屈せず、また丁重に断った。

一段と痛い視線が強まった気がした。



「あ、あのー...」


「...あん?」


「俺飛び入り参加だったんであまり詳しく知らないんですけど、俺らがお仕え...でいいのかな。殿様ってどんな方なんですか」


「...野暮なこと聞くんだなお前。」


「えっ?」


「ここにいる全員、誰に仕えるとか興味ねぇよ。皆未来の泰平とかよりも今日の糧の方が大事に決まってらぁ。お前は違うのか?」


「いや、まぁ...。似たようなところっすね。」


「んじゃ黙って明日の戦に備えとけ。酒も飲めねぇ下戸はな!ガハハ。」


教科書に載ってた大名たちは皆、天下泰平、万民の笑顔、様々な大義のもと戦をしたと書かれている。

実際のところはよく分からないが、少なくとも下っ端にはそんな甘い想像が出来るほど、安寧は戻っておらず、リアリストになるしかなかったのである。


徐々にこの狂った時代が垣間見えたアキラは、そのまま床に臥せったという。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




夜が明け、次なる戦地へ赴いたアキラ。

総数200人対300人の小戦場。

横並びの小隊が土手を挟んで睨み合っている。


昨日と打って変わって、血が滾ってきたアキラ。

強い日差しにうたれ首筋に汗が滴る。


「折角こんな時代に来ちまったんだ...。手柄貰って生き延びてやるぞ...。」


「よっしゃその意気だ。今宵は勝って酒を飲みまくるぞ...!」


「アンタ、ゆうべすげぇ呑んだらしいじゃんよ...。」


隣で意気揚々と大酒喰らいの先輩も意気込んでいる。

開戦の時は近い。



自陣でホラ笛が鳴り響いた。

それに呼応して敵陣もホラ笛を鳴らす。

太鼓の音が戦場中に響き渡り、胸の奥を震わせる。


「かかれぇぇぇぇええ!」


いよいよ幕開けである。

足軽尖兵のアキラ達が勇み足でかかる。

土手を駆け足で降りて敵陣に向かう先、敵方足軽尖兵も死守せんと襲いかかる。


手にした槍を無茶苦茶にぶんぶん回す。

当たっている感触は無い。だが死にたくない敵方足軽は槍を避けるように一足引く。

その隙をいいことに隣の酒飲み先輩が一槍、敵の腰元を突き刺す。

膝から崩れ落ちていったと同時に、味方兵の一人もその場で倒れる。

結局はやってやられての消耗戦。これが戦である。



「うおおおおおおおおお!誰も近寄んなああああああ!!!!」


そんなことには目も触れず、ただひたすら槍を回し続けるアキラ。

掠めてもいない切っ先ではあったが、この槍術もへったくれもない動きが敵を惑わせる!


味方は次々と隙の生まれた敵兵士を討ち取り、この場を見事制し上げた!


一目散に引いていく敵。

ニ戦目にして、なんと戦勝を飾ったのだ!


「か、勝った...!」


「でかしたぞ若いの!生きておるぞ!俺もお前も!!」


そっと胸を撫で下ろすアキラ。

腕に滅茶苦茶疲労が残る。


早く帰ってご飯を食べたいと口元を緩めながら自陣に振り向くアキラ。


その時であった。


「おーいどうした、手柄貰うんだろ?」


「あぁ...。ん?手柄?」


「そうだぞー。お前がやらなきゃ俺が分捕るぞー。」


手柄はあとで報告すると思っていたアキラには何を言っているか分からなかった。


先輩は腰元に差した脇差、小刀を抜いた。


「な、何を...?」


刀身がきらりと光る脇差の先が指したのは、その場で倒れる敵兵士。


先輩の左手が敵の首元に手を当て、そのまま首元を掻き切った。


「!?」


現代人からは想像し得ないこの異様な光景に、アキラは動揺が隠せなかった。


「ほーらほら、敵さんの首獲ってやったぞー。馬鹿やめろ、これは俺の獲った首だぞ。」


次々に敵の首を掻き切る味方たち。

次第に土手は血で紅く染まっていく。

血の池から足音をペタペタ鳴らしながら先輩が語りかける。


「おーう、どうしたよ。早く来いよ!」


その屈託のない笑顔の目の奥は黒く、ニヤついた口元には返り血で広がっていた。



「あっ...あぁぁっ...」



アキラも脇差を手に取り鞘を抜く。


よく研がれた刃先が向いたのは、自らの首だった。


アキラは一旦口から嘔吐した後、そのまま脇差で頸動脈をプツリと切り、そのまま喉元まで一気に刃を進め、頭から倒れた。


その顔は、この時代にとってとても滑稽で、どこか浮世離れしていた、ようであった。







ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




強い日差しが瞼に入り、目が覚めた瞬間勢いよく身体を起こした。


フカフカのベッド、鳴り響くアラーム、スマホの通知音。


「帰ってきた...?」


男は帰還した。


深い溜息をついた後、起き上がりコーヒーを淹れる。

戦国の世では確実に匂わない、香ばしい香りを嗜み、かつて散々経験した、この日常を深く噛み締めた。


かつてはこの土地も戦場だったのだろうか。


経験から不意に歴史が知りたくなってきた。

あの後、戦はどうなったのか。天下はどのようにして進んだのか。


スマホを取り出し、色々調べてみようと意気揚々だったその時、不可解なものを目にする。


「こ、皇紀2685年!?」


普段西暦で数えるはずの年数が皇暦で書かれている。

戦時中は活発に使われてはいたが、終戦後は西暦で定着したはずである。


その時、外から銃声が一発鳴り響く。


思わず驚いて尻もちをついた後、銃声は数分に渡って鳴り響いた。


暫く経って止んだ後、アキラは恐る恐る外に出る。

様子を見ようと歩いていった先には、まだ記憶に新しい、人が血を流して倒れ込んでいる光景が広がっていた。


槍や刀は銃に代わていたが、敵味方同じく日本人のようである。


あまりに悲惨な光景に頭が真っ白になっていくと、片方の軍がおもむろにスマホを取り出した。


「へへへ、手柄手柄っと...。馬鹿やめろ、ここは俺の撮る所だぞ」



かつて首を獲って手柄を証明しようとしたのと同じ様に、スマホのカメラで敵の首を撮っていたのである。



「おーう、どうした。ここらの民間人か?あぶねぇから下がってろ。それともあれか、お前も手柄分捕る気か?お?」



アキラはふらつきながらも一歩ずつ前に進んだ。


白目を剥いたアキラが地面から拾い上げたのは、一丁の拳銃だった。





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