Key4 終章 夢刻の奏門7
かなり間がいての投稿になってしまい、土下座しても足りないと思います。もうしわけありません。・・・・
終章はこのまま続けていき、あと10未満程で完結させる予定です。
最初の頃と違い不定期なってしまい、度々謝罪いたします。
「夢だと決め付けたときからこっちだったんじゃないか」
関野はそういうと飛んで行った何かがまだいくつも在る事がわかり、更に窓の外をよく見ようと逆光に目を細めてそう言った。何かが飛んでいった音がしたのだから、
きっと何かがいるはずだと表をみていると、愛華がそれを見ながら軽く彼の肩を叩いてきた。
「関野さん、貴方も三回目になるから随分となじんだのかしら」
愛華はそう言って関野が探していた飛んでいる何かを指差して、説明しだした。
「あれはね、ザナイ地帯では移動用に使われているものらしいは。私はアレを使ったのが数回しかなかったから何ともいえないけど、
あまり空気がいいところじゃないからね、ザナイは。移動して住居に戻るときに使うまぁ、エレベーターみたいなの」
「エレベーターだと? あれが? いや、まてそんな説明聞きたくてみていたわけじゃなくって、おれは、そうだ、何で痛みが夢を見るときに必要なのか、
いや五感がどうして必要なのかを知りたかったんだ」
説明されている先を聞きたかったが、そんなことばかりで話をそらされていては肝心の事も分からなくなりそうだと、関野はまだ風を切る音がする表から目線を外して隣に立っている少女を見下ろして言った。
彼女はそうやって何かをそらしているような気がしてならないのだ。関野が質問した事に対して確かに答えているように見せかけて、その実まったく違うところに誘導している。
今もそうだ、表を見ていて親切そうに説明しているが彼女は関野から見下ろされているにも関わらず、その瞳を真っ向から受け止めて笑っている。
そうして見下ろしている関野に対して、愛華はゆっくりとその手をあげて関野ポケットのあたりに手を触れた。
「あなたはね、それを否定しているけど入ってきたときはどうだったかしら? 夢の中なのに痛みを感じていたのを私は今でも覚えているわ。そして、今私に触れられている手のひらの熱も感じているはずよ」
愛華の小さな手のひらからは確かに熱が伝わっている。関野はそうまでされて何を彼女が言いたいのかがわかり、触れられた手を掴んで離すと、自分が最初に打ちつけた手のひらの痛みを思い出していた。
「俺も痛みを感じていた? だが、そんなまさか、それだけで夢の中での五感がそろうわけが無いだろう。現に今まで俺は外の、おとがきこえて いなか った」
言った言葉を反復するように切れさせて関野は、今まで愛華との話し声しかなかった空間が窓の向こう側の音も聞こえだしているという事にいっそう驚かされた。そうして、愛華が何を話しだそうとしているのかを更に問い詰める。
「愛華、何をしているんだ。俺に一体何をしているんだ」
「何かしている? 何もしてないわ。ああ、でも現実では薬を盛ったかしら。でも意図的にじゃなくってだからカウントされないと思いたいのだけれど。
あとね、いい加減驚きすぎて話が進まないから答えも言っちゃうわ。痛みやね、五感が必要なのはこっち側の世界でのことをおぼえて置く必要があるから。
あまり貴方には重要じゃないことだけど、それが五感のある理由らしい、わよ」
オレンジ色の残光が、消えて紫と黒の色が表から忍び寄ってくる。説明された五感がある必要性は夢を覚えていることからきているものだという。
それがどうしてなのか分からずに、関野はまだしっかりしているはずだと思いたい脳を活動させてその答えを受け止めて話をした。
「そう、か。五感が必要なのは夢を覚えている必要があるからか。ならなんで俺がそれを感じる必要があるんだ。おかしいだろ。赤の他人で、いきなりこっちの空間に来てそんな事ができるようになるなんてご都合にもほどがありすぎる」
「そうやって否定してもね、もう貴方は視覚も聴覚も触覚も、こちら側を体感できるようになっているじゃない。それをどう受け止める気? ご都合だと言い切るなら、はじめ見えたこちらの片鱗はなんで? ほら、貴方が説明しきれないじゃないの」
愛華は受け止めた関野の言葉を分かりきった事をと、軽々と返して、巻かれた包帯の手をひらひらとさせてベッドに戻っていった。そうして布団に戻ると、彼女はまだぐるぐると思考が回りっぱなしの男に椅子に座るように促した。
「ねぇ、説明してもわからないからってね、そう悲嘆にくれる必要はないわよ。私が説明しているのが分かればいいんですもの。今知ったことで、知る事が出来たからもうそれはしらない事じゃない。だから、貴方には何が必要だかもうわかってきたのじゃないかしら? 」
愛華はそういうとまだ立ったままの男をなだめるような猫なで声で慰めた。
「知らないことを、知ろうとすることが今必要なんでしょう? 」
愛華がそう言った慰めは、関野の思いを揺らした。知りたいからこそ、此処まで来たのだと。だが、そう思うほどに逃げ出したいという悪寒はよりいっそうひどくなるばかりだ。
「お前は何がしたいんだ」
呟いた言葉に、愛華がすこし慌てたように返した。
「知りたいの?ねぇ、知りたいの?だったら私の話聞かなきゃ教えたくないわよ」
あまり愛華らしくない慌てぶりで、それに何があるのかと問おうとしたら、窓の向こう側から大きな音が響いて反射的に後ろを振り返ってしまった。
背後の窓の向こう側では、先ほど愛華がエレベーターといった物体が壁にぶつかったらしく、誰も人を乗せていないそれがどうしてこちらに来たのかは分からなかった。
「なんだ? こっちにしても、表にしても俺には知らないことも理解が出来ない事も多すぎるんだ。おかげで頭がおかしくなる。組み立てようとした端から愛華、お前さんに崩されている気がするよ」
「そういわないでよ。私も今のは私のせいじゃないわよ。向こうが勝手に来たんだったら私のじゃないしね。
向こうの住人が乗っていたように見えたけど」
愛華がそういうと、関野は更にもどかしさの苛立ちに任せて彼女を強くにらみつけた。もう、いい加減筋道立てて話したって何が変わるわけでもあるまいに、と突っ込みたい。
そんな関野の内心に気づいたのか、愛華も話すトーンを変えて脱線や寄り道ばかりだった会話を元に戻そうとしているようだった。
「睨まないでよ。で、そうね、今日話す第三関門が終わったら必ず私の事故について話すわよ。そうね第三関門。たしか、扉に放り込まれたところだったかしら」
「俺の疑問も解決してないのにそのまま話を続ける気なのか?それじゃ納得もできないだろうが」
「貴方も大概しつこいわね。わざわざ私だって遠回りして話しをしているの。分かりやすいように」
愛華が舌打ちをしながらそういうと、関野は釈然としないまま黙り、乱暴に自分のポケットからメモ帳を取り出すと、立ったままで話を聴く体制をとった。
愛華は、そのままでいる関野を見て何とも言いがたいと、呆れながら第三関門についての話を始めた。
「あれからちょっと経つから、何処まで話したか思い出すのも面倒ね。でも、そう、確か区切りがいいところだったはずですもの」
そう、目が覚めたところからだったかしらね。そう切り出した愛華は立ったままの関野の顔を物憂げに見ていた。
愛華は目を覚ましたときに自分が何日も寝ていたのでは無いのかという錯覚に襲われたという。正確な時間など分かるはずでもないが、向こうにはまる三日間はいたようなときが流れているのを感じたそうなのだ。
眠りから目覚め、その日の学校にいる間も浮ついた気持ちのままで楽しかった体育の時間や、図工の時間も忘れるほどに愛華はその夢の続きを気にしていた。
いくら彼が叉次の関門が待っているといっても、夢は夢でしかない。続きが見られる夢なんて聞いたことも無ければ実際見たこともなかった。それを考えれば考えるほどに、愛華の気持ちは沈んでいき、残念だという思いばかりがつのり食事もなかなか喉を通らないまま夜を向かえ、眠りに落ちたのだという。
瞳を閉じて瞼の裏に昨晩の冒険に満ち満ちた夢を思い描いて愛華は落ちる意識を感じていった。