第一話
第一話です。流血描写っぽいのあるので苦手な方はご注意ください。
****th kill
闇に包まれた裏路地。大学生くらいだろうか、1人の男が家へと足を急がせている。
その半ば、ぼんやりとした月明かりの中でやっと視認できるほどの影が、男へ向かって歩いて来る。
数メートルほど影が近づいたところで彼は気付いたものの、特に気にせず歩こうとする。
しかしその『影』は、すれ違いざまに彼にこう声を掛けた。
「夜道は気をつけたほうがいいですよ、なんてね」
彼は驚いて振り向くが、そこには何の姿もない。
不可解な現象に彼が困惑したのも束の間、腹から生暖かいものが流れるという奇妙な感触に襲われる。
目を落とす。鋭利な刃物が内蔵もろとも腹部を貫いている。体温を感じさせる血液が、裂け目から零れ落ちる。
不思議と痛みは覚えなかったものの、意識が遠のいていく感触が脳を襲う。
結局、多量の出血に体が耐えられずに、彼は自身の鮮血の池に崩れた。
「だから言ったのに。夜道は気をつけたほうがいいですよ、って」
少女はそう、呟く。
詩影タテナ。殺人鬼。
「全員殺す」
2nd day
「遅れました」
私は部長にアイコンタクトを送る。彼は目線で空席に座るように促す。
「じゃあ始めよう。昨夜も3人くらいの被害者が出たね」
黒板に磁石で止められている地図には、私の昨日訪れた場所が赤でマークされている。ご丁寧にも被害者や犯行の詳細付きだ。
「毎回気になってるけど、どーやって情報集めてんの、それ」
質問したのは、3年の棚背先輩。ボサボサの髪に濃い隈、ピアスとかなり治安の悪い格好をしている。
部長の裏鏡先輩がザ・模範生なので、よく比べられるそうだ。本人はあまり気にしていないらしいが。
「僕の父親は警視庁のお偉いさんでね、そこから」
裏鏡先輩はそう答える。よく考えたら普通に情報流出なのだが、話がそれるので突っ込まないでおく。
「で、なんか進展はおありで?」
「いや。指紋はなし、監視カメラは破壊か誤作動。足取りも全くつかめてないんだ」
そう言って部長は肩をすくめる。やるせない気持ちが憂いを含んだ瞳に写っている。
「え、たてのんはどう思う?」
私に話を振ってきたのは、2年の反町先輩。出会って2日で私に可笑しなあだ名をつけてきた。フレンドリーで、同性の私から見てもそこそこ可愛い。
「私、は…なにか狙われている人たちに共通点とかないですか?」
こちらはミスリード。無作為に殺してるだけなので実際には何もない。
「いや、今のところは首都圏に固まってるくらいかな」
まあそうだろう。いずれは地方や海外でもしなければならないが、まだ序盤も序盤なので仕方ない。
「君はどう考えた?幣」
裏鏡先輩は残った1人、2年生の幣先輩に問を投げる。
幣先輩は無口で、無愛想。基本的に自分からは発言しないし、ミステリアスで掴みどころのない様相だ。
「何も。情報が少なすぎて」
淡々とした返答に、部長はもう一度肩をすくめた。
「でも、不思議じゃない?これだけ殺されてて、なんにも手がかりナシ!って」
「まあ、そこは僕も不思議に思ってるけどね」
痛いところを突かれた。私の体は少し特殊で、そのおかげで目標の達成にかなり近づけているのだが…簡単に解る代物でもないのでしばらくは大丈夫だろう。
「ま、じゃーあれで行くしかねーじゃん」
棚背先輩が意味ありげな笑みを浮かべる。裏鏡先輩はそれに頷き、こちらは爽やかな笑みでこう放った。
「じゃあ、囮でおびき寄せるのでいいかな?」
全員がそれに従う意を示す。私は内心ほくそ笑む。
囮など解ってしまえばこちらのものだ。回避することは簡単、他を狙えばいいだけ。
しかし私はもっと面白いことを思いついてしまった。ハイリスクだが、思いついたからには実行しなければつまらない。
(じゃ、囮を本当に殺して、そのまま逃げきってみせますか)
私は脳内でそう呟くと、自然な笑みを顔に貼り付けて会話へと戻った。
これからは多分こんなふうに殺し/日常を分けつつ書こうかなと思います。
キャラは苗字だけ決めて名前はまだ決めてないです、必要になったら出そうかなと。
ではまた次話でお会いしましょう。