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世界の管理者と記憶保持者の関係について ― 論文『偽りの創世神話』から抜粋 ―

またすぐに恋愛じれじれに戻ります。

 1,ニブルヘイム人と船乗りの邂逅



 熱動力移送吸引機器――通称世界樹(ポンプ)を作り出したニブルヘイム。

 現在は独立国家と称し、誰もたどり着くことができない大陸東端の山奥に引きこもっている。


 ヤルンヴィット神興国と同様、ニブルヘイムについても情報は乏しい。



挿絵(By みてみん)



 かの国に関して有意義な情報を提供してくれたのは1000年前に「ラインの地」に住んでいた詩人の書籍群と、諸島国家に住む老船乗りの証言である。


 多くの読者が把握しているように、諸島国家は大陸を囲む島々が集まってできた島国だ。

 船乗りだったエフトリ氏は人生の長い時間を貿易船の上で過ごし、現在もかくしゃくとしている。


「だいぶ前の話だが、海に落ちたニブルヘイム人を助けたことがある。髪は銀髪、前が開いた白いロングローブ……“ハクイ”を着ていた。風貌は変わっていたが話してみればなんということはない、俺たちと同じ人間だったよ」


 筆者の問いに、エフトリ氏は快活に答えてくれた。海に落ちた理由を聞かれたニブルヘイム人は「南方の国々を観察していた」と答えたそうだ。


 当時の言葉を具体的に記録することが証拠の信用性を高めると判断し、以下の記載とする。

 なお筆者の相づちは省略、エフトリ氏の証言のみを綴ってある。


 ◆


 ニブルヘイム人は高いところから海へ落ちたようだった。俺たちが甲板の上で介抱しているうちに意識を取り戻すと、彼は何度も頭を下げてお礼を言った。彼はすべての国の言語が分かると言っていた。


 ただそのときは海流の関係でニブルヘイム近くまで引き返すことが難しかったから、俺たちはいったん諸島国家に戻ることにしたんだ。


 彼はその間いろいろなことを話した。「自分の国には高い建物があって、そこから南方国家を見張っていた」「戦争が起きると大陸が荒れるから、戦争が起きないように見張っている」。


 特にニブルヘイム人は帝国のことが気になるようで、俺たちに帝国の話を聞きたがった。


 確かに当時のミドガルズ帝国はどうしようもない国になっていたな。異常な交易税をふっかけてきて、逆らえば警告砲を撃ってきた。諸島国家はミドガルズとの貿易を中断していたんだ。だからニブルヘイム人がそういう質問をする背景も理解できた。


 ニブルヘイムはどんなところなのかと聞いたら、彼は少しだけ困ったようだった。話せる範囲でならと前置きをした上で、「技術が発達している」と答えてくれた。「バナヘイムみたいなものか」と問い返せば「それよりももっとすごい」と返ってくる。全然想像がつかないなと、俺を含む諸島国家の船乗りたちは酒を飲みながら笑っていた。


 でもニブルヘイム人はつられて笑うこともせず、「あなたたちには恩がある。私たちの技術力の一部を提供する」と真剣な表情で話していたのを覚えているよ。


 さて、諸島国家の港に帰ると、みんなが驚きで固まっちまった。


 そこにとんでもない黒い船があったからだ。

 誰も見たことのない色・艶・形の船だった。


 後にニブルヘイム人が諸島国家の海軍に説明をしてようやく理解したところによれば、それは軍艦というもので、植物の化石を燃やした熱で回転羽根(タービン)を動かし、船の動力を生み出すんだそうだ。

 ずっとマストの向きを見て生きてきた俺には未だに分からない。


 しかしその軍艦のおかげで俺たちは海賊を撃退でき、帝国の威嚇(いかく)攻撃にも対抗できるようになった。貿易も順調になった。ニブルヘイム人さまさまだよ。


 数日経ったある日、ツルツルの乗り物が海の中を泳いできた。ニブルヘイム人を迎えに来たという。

「本当に世話になった」。ニブルヘイム人は何度も言った。「あんなボロ船だけでは気持ちがおさまらない。どうか私たちの技術の一部を受け取ってほしい」。


 そういって彼は、国王直属の祭司(ドルイド)の手のひらに謎の文字を書いた。


「あなたたちに世界樹の知恵を授ける」


 それが、あの不思議なニブルヘイム人との最後の別れになった。


 その日以来、国家の祭祀を担うドルイドたちは性格が変わり、なんと本当に未来が予測できるようになったんだ。文字通り別人になっちまったんだな。


 今の島国運営には、ドルイドたちの存在は不可欠だよ。

 あのときのニブルヘイム人はもしかしたら神さまだったのかね。


 ◆


 なんとも不思議な話である。


 だが、この逸話から分かることはニブルヘイムがとんでもない技術力を持っていること、そして、その技術力を以て南方国家――おそらくミドガルズであり、旧ヤルンヴィット神興国を見張っているということである。



 2,世界の管理者ニブルヘイムによる“人型”創出のメリット



 ニブルヘイムから世界樹(ポンプ)の主導権を奪い取ったのがヤルンヴィット神興国だとされている。


 ミドガルズ地方で出土した石碑によれば、ヤルンヴィットはポンプから供給される熱力によって戦いのための兵器を作り出し、街を作り、巨大な乗り物を空に飛ばし、果ては“人型”すらも生み出した。


 であれば当然、ニブルヘイムもそれらのことは可能だったはずだ。


 彼らがどうやって兵器や人型を生み出していたのかは分からない。だが、先ほどの諸島国家エフトリ氏の証言を思い出して欲しい。


『あなたたちに世界樹の知恵を授ける』


 そう言って触れられたドルイドたちの人格は変わり、これまでにない知識が溢れる人物になったという。


 これを、ニブルヘイムやヤルンヴィットが行ってきた“人型”の創造行為に似たものと見ることはできないだろうか。


 予言とは統計学に依拠するところが大きい。過去の知識が多ければ多いほど、現実的な未来予測が可能になる。

 彼ら彼女らは何らかの手段でニブルヘイムの知識――エフトリ氏の証言を鑑みればおそらく記憶も――を継承し、大きな力を得ることになったのだ。


 ニブルヘイムはこれまで長い間大陸を管理してきた。いわば、世界の管理人である。


 ニブルヘイム人の寿命が一般的な人間と同等なのであれば、大陸管理の観点からも「記憶を継承する人型」は非常に重要な存在となるだろう。


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― 新着の感想 ―
本当に異世界が舞台なのか分からなくなってきました。 というかジャンルに【異世界転生】と書いてあるからもしかすると我々の世界とある程度の接点があったりするんじゃないか……気になります。 ちなみに堕天使…
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