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6 数馬の夢 (3)

 深夜の小田道場、一刀斎が気配を感じ目を覚ました、五人、六人、いや、十人は居る……、ゆっくりと頭上の刀に手を伸ばした。

 道場にはかつての門下生が大分戻ってきていた、その中の一人が一刀斎に何事かあってはならぬと住み込みをしていてくれたのである。

「先生、曲者が」

「分かっておる、大勢のようだのう」

”パシッ! パシッ!”

 遠くで障子が開く音が聞こえた

「狙いはわしじゃ、沙耶と奥を頼む!」 

”パシッ! パシッ!”

 音が迫ってくる、一刀斎の部屋の障子が開いて刀がスーッと入って来た時、横からそれを払い二名を同時に討ち果たした、刀の打ち合う音と静かではあるが断末魔の声で刺客が一斉に集まって来た、一刀斎は沙耶たちと反対方向の庭に下りていた、一刀斎を探し狭い通路を行く刺客の一番後ろの者を斬った、一斉に振り返り一刀斎を取り囲んだ、狭い中庭で母屋の壁を背にして、三方を囲まれる格好だ、後ろからの攻撃は無いので、正眼の一刀斎が技量においても一枚上なのだが

「一刀斎どの、刀を捨てられよ」

 見ると、妻の喉元に小太刀が当てられている、守るはずの門弟の裏切りである

「貴様、沙耶は」

「沙耶さまは大事なお身体ゆえ、眠っていただいている」

「何故、裏切る!」

「今の大垣藩は変革期でござる、なにが正しく、どちらが悪いは関係なく、落ち着いた先が正義となるもの、大勢に付くのが常道でござろう」

「お主、正義とはただ一人でもその為に死ねるもの、生きる為の正義では無い」

「なんと言われようが、死ねば終わりでござる、師には悪いがここで正義と言われてものぅ、刀を捨てなされ! ご内儀に危害は加え申さぬ」

 やむなく一刀斎が刀を捨てる、即座に正面の刺客が刀を振り下ろした、だがその刀は大きく逸れ、後ろの壁を叩いてしまった。

 刺客の背中を黒鉄の六角棒が付き倒していたのである。と同時に裏切りの門弟も拳大のつぶてを顔面にくらいもんどりうっていた。

 数馬と五郎が帰って来たのである。

(どうして?いま何時? 数々の疑問は残るが、物語とはそうしたモノである、一つ々々説明は出来るが、それをすると、一番のクライマックスでCMなどの様に気持ちが削がれるので、多くは言わず話を進めるのである… 許してぇ!?)

 騒動は直ぐに収まった、数馬が四人、五郎が三人。 峰打ちと膝打ちで仕留めたあと、道場に集め縛りつけた。

「師匠、ご無事でしたか」

「数馬、五郎、よく帰ってきてくれた、正に間一髪、礼を言うぞ」

「それにしても、家老一派とはこれ程までに汚い奴だとは、師匠、もう遠慮は要りません、ここに主税君の殿に宛てた書状がございます」

「うむ、良い働き! 数馬、沙耶を見てまいれ」

 数馬が寝室に行くと、沙耶は布団の上に突っ伏していて傍で母親がウロウロしていた、あのいつも強気な沙耶が弱々しく倒れ込んでいる姿に言葉に表せない愛しさと切なさ、離れている間は心の支えとしたこともある、色々な思いがこみ上げ、自然と涙が流れてきた。そっと抱き起し、背中にカツを入れる。

「うっ」

 っと正気に帰った沙耶だが、まだ意識はもうろうとしていた、誰かに抱かれている、温かく力強さを感じる、母とは違う、父とも違う、誰だろう…?

 抱いてくれている主が自分を呼んでいる、数馬であればいい、目を開けて確認したいが、これは夢だ、目を開ければいつも数馬は居ないのである。

「沙耶どの、沙耶どの」

 いつもと違い、はっきりと聞こえた、目を開けても数馬は消えない、不思議そうに数馬の顔を見た、思い描く数馬と少し違っていた、逞しいと思った。

「数馬?」

当てをくらったみぞおち付近に痛みが走り、また気を失ってしまった。


 翌日、一刀斎の登城には数馬と五郎も同行した、あの忌まわしい大手門も当時と少しも変っていなかった、三の丸広場から菱の門を潜り、城の評議所へと進む、

ここで城主への取次ぎを願うものである。

 ただ、城主への目通りは家老の許可が必要で、陳情も書面にて、家老の検閲が常となっていた、一刀斎の懐には上意書があり、数馬には主税から殿への書状があった、強行突破で行くしかないのである。

「ならば、その書状、真に主税君の書状であるか中身を確認いたす」

「お手前に確認していただかなくてもけっこう、殿に直に渡すもの」

 襖がスーッと開き、奥の間から家老側近・近森刑部が現れた

「それはいかんぞ?ここは藩の規則に従って頂く、それともあくまで主税様の名を騙り無礼を働くものならば、即刻この場で斬り捨てる!」

「あいや、両者待たれよ!」

 慌てて取次ぎが静止に入るがそれは何の役にも立たなかった、刑部もここで書状を無きものにせねば自身、家老の身も持たないのである。

 刑部に続き手下の侍十名ほどが飛び出してきた、いずれも手練れであることは間違いない、ただ一刀斎と数馬、五郎がいる、流血を避けるには五郎の棒が最適だった。 取次所から外へ出て抜刀した侍に五郎の鉄棒がうなる、棒が唸る度、いとも簡単に刀が飛んでゆく、さらに鉄の棒を肩に食らい、腰に食らい、膝に食らう……、数馬も一刀斎も抜刀することさえしなくて良かった。

 五郎の棒が静かになったころ、戸田道場の門弟十人ほどが駆けつけてくれた。

 大垣藩家老・渡瀬陣内の陰謀は見事に頓挫した、家老に抑え込まれていた城主戸田氏鉄もこれを機会に隠居となり、後目を主税が引き継いだのである。

                               

 ただ、それは後日のことであり、この日のことはまだ終わっていない。

 小田道場、夜中の騒動の片付けは門弟と数馬が以前住んで居た長屋の皆が済ませてくれた。沙耶が目覚めた奥の間である。

「母上、今日数馬さまがいた夢を見ました」

 沙耶が数馬のことを”数馬さま”と呼んだ、夢で会えた数馬の成長した姿が想像を超えていたのである、もう呼び捨ては出来ぬと思ったのであろう。

「……」

「温かく、力強い腕でわたくしを抱いてくださっていたのです」

「ほほう、良かったではないか?」

「はい、でも考えてみましたら、一度も触れたことのない数馬さまなのに、本当に抱きしめられている様な…… もうこのまま死んでも良いと思ったのです」

 部屋の障子がスーッと開いた。

「沙耶どの死んではいけませんぞ?」

 数馬は側に来て沙耶の手を取った。

「数馬さま、帰って来られたのですね、そしてわたくし達を救って下さった」

「まだ、あまり喋らなくても……」

「いえ、わたくしの夢がかなったのでございます、喋らずにはおられませぬ、数馬さまはきっと帰って来られると信じておりました、今は離れて心の支えだけであっても、いつかはきっと、いつかはきっと……と」

「そうです、私も離れて以来、沙耶どのの事が頭から消えたことは無かった、いつも叱られ、いつも励まされる、そして少しだけ褒めてくれる沙耶どのに……、

貴女の元に必ず帰って来ることが私にも夢でした」

「数馬さま、もう一度抱きしめてくだされ、夢でないと、夢でないと……」

 母はいつの間にか居なくなっていた、薄暗くなった部屋に明かりはいつまでも灯らなかった。


 五郎は小田道場で棒術を教える事になった、と言っても近所の町人、百姓の子供達が相手である、彼らは剣術は習うことが出来なかったので、棒となる訳だが、城内で五郎が侍を負かした事から、棒一つでも何か役に立つことがわかったのだ。

 小田道場に活気が戻った、大垣藩も主税が城主となり、次男の丈太郎は江戸詰めとなった、藩政の改革も行い新しい出発だった。

 ある日、数馬が主税に呼ばれ、重臣に取り上げる旨の話があったが、断った。

「ならば、そちは何がしたいのじゃ?」

「は、しばらくは妻と共に諸国を周りとう存じます、私の夢にございます」

 城を出て、見上げると、空の高みを二羽の鳶が旅に誘うよう舞っていた。


                                完



あとがき

 

人生初めての長編時代小説が書き終わった。

 実を言うと、4部までくらいは楽しかった、読む人よりも書いてる者の方がよっぽど楽しめていると思ったほどだ。 ふっと思いついた発想から、時代物を書き始め、1部は1週間、2部、3部、4部、は其々2日、5部は5日、6部も5日で書いた。 2,3,4部は次から次へとシーンが頭に浮かんできて、面白い様に書けた、ところが5,6部は物語を終わらせなければならず、終わりのシナリオは出来ているのに、具体的なシーンが全然浮かんでこなかったのである。

 あれはどうなった? これはどうなったんだろう? と書き残した事は沢山あるが、収束が見えた時点では話を広げたく無くなるのである、やる気がなくなっているのだろう……。 でも、内容はどうであれ、一応完成させた事で本当にホッとした。


 書けなかったことのあらすじを少し書いておこう、又右エ門のもう一人の供である、名前も決めていなかったが彼は主税討ち損じを報告するべく、国元に逃げ帰る途中、夜の箱根峠で四朗が獣と間違って撃ち殺してしまう、四朗は報告の書状を見て江戸での数馬、五郎の働きを知るのである。(歌舞伎の忠臣蔵にある?)

 スリのお蝶は長五郎一家の女将さんとなり、同じく長次は大垣藩江戸屋敷の使用人となる。 大井川渡しのトクは組頭となる、数馬の帰りに川の真ん中で偶然出会い、そこでムリヤリ担ぎを交代して数馬を背負う。

 海産問屋・近江屋は数馬の兄たちが不正の証拠を探し、藩政改革でとり潰し、権左衛門は家老・渡瀬陣内、側近・刑部、甥・政虎と共に打首となる。

 エピソード1で登場した童の梅は五郎が奉公した米問屋に年季奉公に来る、そして道場にて五郎から棒を習う。


 小説を書く、と言うことは本当は楽しいモノである、登場人物は好きなように決めることが出来るし、名前も付けられる、性格も容姿も決められるのである。 当然のことではあるが愛着も湧いたりする、二人のさやを会わせれば、どちらかを殺すシナリオしか浮かんでこなかったときは本当に辛かった、書けなかった。

 どこでこんな展開を思いついたか…… 妻に思わず言った。

「おれ、どうしてこんなに嘘っぱち書けるんだろう?」妻は笑っていた。

 さあ、早也はどうなったのだろう? それだけが気がかりで筆を置く。

  最後に、長く読んで下さった方、ありがとうございました、感謝です。


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