妖刀に宿る鬼神は、ノイズを走らせる。
みんな~♪
お・ま・た・せ⭐(待ってない)
「はは……あははははッ!!!」
全ての敵は切り伏せた。
そうして世界は平和になる筈だった。
しかし、その平和になる目前というのは──────あまりにも、残酷であった。
「なぜ、じゃ?なぜ……」
かつての主である男の妹である巫女が、組織の幹部達を切り伏せていた。その中には共に肩を並べて戦った者もいたのだ。
「これは……巫女様!何故このような」
「黙れ下郎。……あぁ、漸くだ。漸く、お前二人をここで殺せる!」
「何を言うておるか!ワシはお主を妹のように思うておった!!!今の主にとっても、善き姉として─────」
「忘れたのですかラセツ。貴女、私の兄様を殺した張本人なのに」
「……は?なにを」
「今の主っていうのが、兄様を殺した………ラセツ、貴女の協力者の転生体。どうやら覚えてはいないようですが……この際、どちらでもいいでしょう。貴殿方二人は兄様を殺した下郎なのには変わりありません」
「何を世迷言を!」
「ラセツ……ラセツぅぅう!!!貴女は!本来、神々に復讐を誓った禍津神!神々に対し、復讐を遂げられるのであれば手段を選ばなかった愚弄者!!!そこの男と親和性が高かったから!!!」
巫女は激昂しながら叫ぶ。
それはかつて、ラセツが神々によって刀に封印された。かつての主とは仲が良い訳ではなかった。しかし、時間に経つにつれて親睦は深くなった……けれども、復讐という欲望には抗えなかった。
「妖刀は所有者がいる場合、他の者が扱うことは出来ない。その所有者を殺せば、その妖刀の、新しい所有者になる」
「あ……ぅ」
「復讐を選んだんですよ、ラセツ!!!貴女は!!!復讐の為に、兄様を殺した!!!そして兄様を殺したそこの男を新たな所有者になって……………よかったじゃないですか。えぇ、よかったんじゃないですか!兄様じゃなくて、本当の所有者と再び一つになれたんですから!!!」
「やめろぉぉお!!!」
頭を抱え、ラセツは踠き苦しむように悲鳴を上げる。まるで今まで都合の悪いことを自ら修正し都合の良いように書き換えていたのだろうか。
「やめて……やめてくれ…………」
復讐に取り憑かれた末路が、この現状を生んでしまった。
もし、その復讐に元所有者と共に歩む事が出来たのなら。同じ復讐でも違った結果になっていた未来があったのだろう。
「鬱陶しかったんです。封印の場から兄様を呼ぶ貴女の声が。耳障りにも程がありますよ。兄様を殺した癖に、それを都合良く忘れて……。だから、アイツに似たそこの男を連れてきたんですよ。そしたらほら………よかったですねぇ!まるで運命に決められているみたいに!貴女とそこの男はお似合いですよ」
「み、巫女よ……」
「ほら、次殺すのは私ですよ?この状況、兄様を殺した時と似ていませんか?兄様は、貴女の封印を解くために神々へ許しを乞いました。兄様の偉業を、その報酬として封印は解かれる筈だったのに、貴女は解かれる前に兄様を殺した。貴女を妖刀ではなく、一人の人間にしようとしてたのに───────────この結果が、コレですよ!!!」
巫女が右手に掴むのは、白亜でありながら痛々しい血管の様な紋様が鼓動する骨の刀。それはあまりにも見るに耐えぬ程の穢らわしく汚染させた呪物だ。
「それ、は」
「あはははっ!見覚えがない?はぁ……これが、兄様です。貴女の愚行に再び神々が激怒し、再び呪いをかけようとしたのですが…………貴女の変わりに兄様がその身に受けた結果」
「!」
「あはっ♪漸く思い出したみたいですね!兄様はこの姿になって、未来永劫苦しむことになりました。はは、そう。兄様を救うには──────妖刀になった兄様を壊し、殺すこと。ああ兄様だけじゃダメですよ?兄様の所有者である私も殺さなければなりません。でないと、兄様は私がいる限り、苦しみながら復活するのですから」
ラセツは、己の行いを悔いるしかない。
そしてここで選択する運命は一つしかないのであった。