ある妖刀に宿る鬼
誤字脱字報告ありがとうございやす!
「どこだ………どこなのだ、あるじさま………」
【妖刀】とは、呪いを宿す刀である。
しかし、その呪いとは内に秘められた力が力が増大で【妖刀】から滲み出すもの。弱ければその【妖刀】の力に蝕まれ、狂気し、錯乱し、壊死し、飲まれてしまう。要は力が単に凄すぎる武器なだけの話。
火は熱い。だから、水や砂で消す。
雷は高い場所に落ちる。だから、高いところから離れる。
その液体は皮膚を溶かす。だから、専用の器具などを使う。
そんな事と同じだ。
【妖刀】は力が強く、呪われる。ならば、その【妖刀】より強い力で打ち消すか。そもそもその【妖刀】と対話し、その力を己の身に害を成さぬ程度に刃へ放出する様に頼む。
意外と、“解決法としては”簡単だ。
しかし、その解決法が難題でもあった。
「あるじ、あるじ………余は、余は、ここにいるのだぞ…………」
ある神社に結界などに封印された場所。幾つもの鳥居もあるが、それも封印によるもの。
その封印された場所に、一人の鬼娘が濁った目で何かを探し歩いていた。暴れる事もなく、ただ、欠けた“ナニカ”を探そうと彷徨い続けている。
その鬼娘は、【ラセツ】。
着物を纏う幼き少女であり、額から黒曜石の如く黒々しく鋭利なそれはまさに鬼としての象徴である。その少女は鬼ではあるものの、愛らしくも同時に美しき鬼でもあった。
「あるじ…………あるじ………なぜ、呼ばぬ。なぜ、使ってくれぬのか。余は、あるじさまの、妖刀じゃ。はよう、はようつかいたもぅ…………」
しかし、本来人を誑かし喰らう恐ろしき鬼。けれども、そのラセツは迷子の様に彷徨うのだ。
「あるじ、あるじ……?余は、もういらぬのか……?もうつかわぬのか……?余を………余を、すてたのか…………?」
その言葉にラセツはポロポロと涙を流しながら歩き彷徨うその足を止め、しゃがみ込む。しかし涙は零すものの、表情は喜怒哀楽もない。ただ、虚無である。
彼女の問いに誰も返す者はいない。
そもそも封印されている彼女以外に誰もいない。
しかし、この日は違った。
「ここが、【妖刀:羅刹】の封印場でございます」
「ここが………そうなのか」
現れたのはこの封印を守り前の鳥居にて門番も兼ねている監視の巫女。そしてその後ろには少年と後ろに付き従う様な三名の少女達であった。
「そして、その結界内に居るのが――――――【妖刀:羅刹】のソレでございます。恐らく【妖刀】の中でも最上級の業物であり、同時に太鼓の昔に暴れていた鬼神を封印をしている【霊刀】でもございます」
「……………巫女か。どうした。あるじがかえってきたのかや?であれば、はよう結界を解け。あるじが余を必要とするならば、余は従おう」
ラセツは巫女にそう言う。
結界をする程にラセツは危険な存在だと、客観的には誰もが思うだろう。しかし、実際は【妖刀:羅刹】―――――ラセツはそれ程危険な存在ではない。ただ、溢れる力が危険なだけ。
「………………ラセツ。お前の主は、ここにおられる方です。新たな主に仕えなさい」
「巫女よ。貴殿には世話になっておる。しかし………しかし、じゃ。それはならん。余のあるじはこの世に一人のみ。そこな子に仕えるであれば―――――――余はここで自害する」
「しかしラセツ。貴女は――――――」
「たのむ、巫女よ。余を使うのはあるじのみ。妖刀として、人の武器としてあるまじき我儘なのは理解しておる。じゃが………余は…………」
傍から見てみれば、ラセツと巫女は仲の良いものにも見えるだろう。特にラセツは巫女に対して理解があるらしく、己のあり方が逸脱していることも理解しつつも、それを拒否することを謝罪していた。けれども、譲れなかった。それだけは譲れなかったのだ。
しかし、巫女は言う。
「ラセツ。これは…………貴女の主からの願いでもあるのです」
「なん、じゃと………?」
「現に、既に“主従の契約”は切れています。これは、貴女の主が自ら切ったのです。新たに他の者と契約をするために」
「…………余は、もう要らぬと申すか。あるじはもう、余を使わぬと?」
「それは……………貴女次第でございます。貴女様が、再び成果を上げれば…………」
ラセツは自らを抱き締めて、涙ながらに嗚咽する。
「ゃ………じゃぁ……………ぃゃじゃ…………他の者になど、つかわれとうない。たのむ、巫女よ。余を、余を主の元へ連れていってくれぇ…………たのむ…………後正じゃぁ……………」
「…………………なりませんラセツ」
しかし、巫女も苦しそうな表情をしながらもそれを断った。その言葉に声を圧し殺して額を地につけてしまう。
「―――――――ですが、成果を上げれば。貴女の主……………兄上に貴女の使用をしてもらうように直接話します」
「!ほ、ほんとうかッ!!!」
「できる限りのことはします。貴女は兄上の相棒であり、武器であり、半身。貴女の事は姉のように思っております。……………兄上が長になった後、もう数年は顔を合わせておりませんが。権力などに溺れていなければよいのですが」
「それはない。あり得んぞ巫女よ。余のあるじは――――――」
「えぇ。わかっています。兄さまは、――――――――……………」
ラセツは、涙を袖で拭き立ち上がったかと思うと巫女に困った様に言う。しかし、それは何処か確実に一歩進もうという覚悟を持った目であった。
「………あいわかった。じゃが、武器で使われる事は余が、ソヤツの力を認めた時のみ。それ以外は鬼として、鬼神として手を貸そう。すまぬな巫女よ。これが余の妥協なんじゃ」
「力を貸してくれるだけでも有り難いものです。どうか、彼らに力をお貸しください。何卒、何卒、宜しくお願い致します」
こうしてラセツは条件付きではあるが、少年達に力を貸すことを決めたのであった。
(´-`).。oO ( どんなバッドエンドにしよっかなー )