ある自己犠牲女
さあ、どんな展開になるでしょーか!
「貴方だけでも、生きて…………」
私には大切な幼馴染みがいた。
物心ついた時には共に過ごす仲だった。
何処にでも居そうな男の子。
特に目立った特徴も、力もない。
けれども、私は彼が好きだった。
彼は何時も私を守ってくれた。
喧嘩する事もあった、仲違いしたこともあった。けれども、結局自然と仲直りになったのは不思議だ。
「私の……分まで…………生きて………」
私はもうすぐ死ぬ。
【聖女】として選ばれた村娘の私だが、父は心配して彼を護衛の騎士として守られることとなった。
何時も何時も私は彼に守られていた。
【聖女】の私は、人を治癒するだけではなく聖なる力で一般兵よりも戦えた筈だ。けれども、彼は私よりも弱いのにも関わらず身を挺して守り続けてくれた。
何度も危ない目にあった。
何度も彼が死にかけたこともあった。
だからこそ、見ていられなかった。
守られ続けるのは嫌だ。
彼が傷付くのは嫌だ。
だから、今度こそ私が――――――――。
けれども、私は【聖女】の力を持ってしても弱かった。戦うという経験が浅かった。浅過ぎた。
そのせいで、私はお腹に穴を空けて血に伏していた。
曇天に染まる上から雨が降り注ぐ。
徐々に体温が失われる感覚は、己の命の灯が消え去る感覚だと自然と理解した。
「あ……し…………る…………」
彼が好きだった。
ずっと一緒にいることが当たり前で、この想いに気付かなかった。ううん、彼と共に居れると甘んじていた結果。もっと早くに伝えれば良かったのに、と後悔してももう、遅い。
「――――――ぁ、―――――――」
せめて、せめて私の愛した人だけでも幸せになって。私よりも長生きして、幸せになって。
これが、私の、最期の願い。
教会のシスターからある話を聞いたことがあった。
【聖女】の強い願いは、実現する力がある―――――と。
ならば。
それが本当ならば、私は願う。
――――――生きて。
――――――私の分まで。