ある女騎士の終わり
「やあやあ!久しいねぇ、【勇者】さま!」
眼の前に現れたのは、胡散臭そうな道化の男。
これで出会うのは二度目だ。
一応コイツには感謝している。
紛いなりにも神なのだ、コイツは。
「いやーっ!転生先でも活躍してたみたいじゃないか!」
私は転生した。
罪を償う為に。
次こそは、あの人の為に生きて、支えると。
神のいたずらかは分からないが、再びあの人は【勇者】として役目を与えられた。あの人は、私とは違い前世の記憶は無い様だ。けれど、今度こそはあの人を裏切らずに【勇者】の騎士として、恋人として、妻として生涯を費やした。
―――――――これで、私の罪は精算されたのだろうか。
【狂乱の魔王】という最強の【魔王】を私達は討ち滅ぼした。
魂そのものを、消滅もした。
二度と復活する事はないだろう。
「前世の君は【魔王】を倒し、世界を救った存在だ。故に、その褒美として第二の人生を与えたわけだけど――――どうだったかな」
本当に感謝している。
私の魂は、あの人と共になることも決まっているのだ。
これほど、幸せなことはない。
「ふーん………そうかぁ。ま、それならいいけど」
何だコイツは。
まるで笑いを堪えている様だ。
何かおかしな事をしただろうか。
「まー、気にしなさんな。ささっ!君はもう前回の様に前世の記憶を引き継ぎながら転生は出来ないけれども!君は幸せを手にしたんだろぅ?ならばよかった。まあ観ていて“愉しかった”よ」
楽しい?
神が言う楽しいとはなんだろうか。
「さあ、君の魂は君の想い人と共に輪廻を回るがいい。君の想い人とは、強い縁に結ばれた様だし、次も夫婦にでもなるのではないかい?」
…………そ、そうか。
また、夫婦になれるのか。
――――――いや。慢心してはならない。
私の罪は、これからも先、転生しても償っていかなければならない。
「…………うわぉ。ま、君がどーするかはどうでもいいのサ!さあ、次の来世も、いってらっしゃーい!そして、それまではおやすみ
何も気づかぬ、憐れな女」
意識は遠のいていく。
しかし、アイツは、神は心底バカにした様な、軽蔑した様な、けれどもそれよりも愉悦に満ちた顔をしていた。
「――――――――バカだねぇ、さっきの女。今世の【勇者】が前世、君を辱めた相手だと言うのに。姿形さえ似ていればどーでもいいもんかねぇ。ああ、前世の【勇者】は可哀想に」
――――――――――――は?
「それに、奇遇なこときその相手も前世の記憶を引き継いでいるときた。嘸かし、あの女を我が物にしたかったねぇ。モテる女は大変だぁ」
――――――――――――ま、まて。
「しかも、よく見てみれば前世の【勇者】と今世の【勇者】の言動とか、仕草とか一瞬で見分けがつくだろうに。“これは前世で彼を裏切ったせいだ!”って見て見ぬふり。アホらし」
―――――――――――――うそ、だ。うそだ、うそだ、そんな!
「まー、バカだから気付かないってのもアレだけど、知らぬがなんとやら?」
―――――――――――――ふざけるなぁ!!!!
「!おっと、マジか。輪廻に入る前には眠ってる筈なんだけど?………ありゃー、今の話聴いちゃってた感じ」
今の話は、偽り―――――――。
「んー?ま、輪廻に入れば記憶も消されるからいっか。さっきの話はほんと。マジなマジな話でース!」
あの人は―――――あの人じゃ、なかった………?
「そそ!頑張って死ぬまで隠していたみたいだけど、上手くいったみたいだねー!君を侮辱し、本当に愛する人を殺す様に仕向けた―――――――君にとって最悪の仇だ。そんな殺したいほど憎い仇と今世では夫婦となって、強い縁に結ばれたんだ。どんまい、きみ。けれどもーいーんじゃない?どーせ、来世も仇と恋人とか夫婦になっちゃうんだし。まー、しゃーないと諦めてもろて」
なんで、そんなことを。
「いや、そんなの知らんし。転生するチャンスを与えただけだよ?ぶっちゃけ、君が誰と結ばれよーとボクら関係ないでしょ?何でもボクらの、せいにするのは酷くなーい?」
あ…………あのひと、は。あの人は、幸せに…………?
「オゥ…………そっか。うーん、君の想い人はね?」
せめて、あの人だけでも、幸せなら―――――――。
「魂諸共消滅しましたーっ!そして消滅してるので、転生とかその他諸々はできませんのですよー!」
――――――――は?
なん、で?
お前は、あの人も転生するって………!
「転生はしたけど、同じとは限らないさ。ぶっちゃけ、来世と同じ顔と姿をした相手に一目惚れって。まあ仕方がないなのかな?」
なんで、消滅をッ!!!
「だって、君達が彼の魂を消滅させたじゃん」
……………ぇ。
「ボクら全く関係ないじゃん。【狂乱の魔王】とか言われてたけど、世界を滅ぼすようなことしてないし。むしろ増え過ぎた人類を間引いてくれてボクらとしちゃ大助かりだけどね。それに【狂乱の魔王】は、私腹を肥やし、市民を食い物にしていた王族貴族などの権力者を殺していただけなんだよ?そのおかげで君達の国や他国は随分と良き国に変わったんだ。【狂乱の魔王】を畏れて、ね」
まて…………それ、じゃぁ………あの人は。
「そうさ。君の本当の想い人――――――【狂乱の魔王】は、人の為に“悪”として君臨し、君達に討たれた。本来なら彼には感謝を込めて転生を考えていたんだけど――――――――君達が魂を消滅しちゃったからね。ほんと、上からは“なにやってんだ!”とお叱りが多方面から来ててんやわんやさ。ま、起こってしまったことは仕方もないし、だって、人間だし」
わ、私は………また、また、殺したのか。あの人を。
「うん、そーだよ?ま、どんまいどんまい」
あ、あああああああああああああぁぁぁあ゛ァァ!?!?
「うん、転生したら記憶とか消えるからヨシッ!」
た、頼む!
もう一度、もう一度やり直させてくれ!
次こそは、次こそは、彼を、彼を――――――――!!!
「や、無理だって。君はもう、君の勇者と縁を結び転生するんだ。それにそもそも、彼の魂は消滅してるから転生させようにも転生出来ないじゃん。ボクらとしては、転生させたかったんだよ?けど、さっきも言ったけど君達さァ…………」
もう、二度と会えない……のか?
「うん。三度目だね。神々としても不能なんて言いたくはないけど、彼の魂を跡形もなく、塵もなく消滅されられれば無理。二度と復活しないように念入りにしたことが裏目に出たねー」
……………………。
「ま、彼のことは諦めて!次、来世じゃいいことあるでしょゥ!」
……………ァ、ぁァァあ。
私の意識は濁っていく。
これが、私の罪なのだというのなら。
潔く、この罪を背負おう。
しかし。
けれど、もう彼と会えないと。
そして、仇であるヤツとこれからの先に結ばれるということが堪らなく私の魂に憎悪を渦巻いていく。
だが、その憎悪も輪廻の転生ではリセットされる。
この想い、この罪、この憎悪はもう―――――――――――
――――――――目覚めることは無いだろう。
ごめんなさい。ごめんなさい…………………………