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胸糞バッドエンド集   作者: BAD ENDLESS
1/6

ある女騎士

さあ、よくある話でーす!


うぇ~ィッ!



 私は世界を救った。


 けれど、救えなかったものがあった。


 救えなかったものは沢山あったけれど、その中でも救えたのに救えなかった物が一つ。


 それは、愛。


 今ではもう腐敗してしまった己の後悔。

 

 大切にしていた筈の人を、裏切ってしまった。


 度し難いことだ。


 一度裏切れば、失えばどうなるかなど分かる筈なのに。


 失った時には、手遅れだ。


 失って気付くもの。


 それが、余りにも多過ぎて。


 どうすれば、この罪を償えるのか。


 最初はそう思っていた。


 けれど、この罪は償うのではなく、背負うもの――――――いいえ、背負わなければならないものだと月日が経つに連れ痛い程理解していく。


 失ったものは、戻らない。


 形あるものも、形のないもの関係無く。


 本来なら、私はこのまま死ぬべきだったのだろう。


 けれど、私には役目があった。


 ――――――いいえ、役目なんてだいそれたものではない。


 それは本来、私の夫が成すべきであった役目。


 夫を殺したのは、私だ。


 夫は、【勇者】だった。


 けれども、人の世では世界を救うという行為が欲望に汚され、穢されてしまう。救済も、破壊も、苦しみも悲しみも何もかも。


 その人々の酷く悍ましい欲望が入り交じり、その結果――――――夫は死んだ。


 彼は、正義の味方であった。


 ヒーローだった。


 けれど。


 そんな人を、私は殺した。


 最も悍ましいのは、性欲に囚われた私自身だろう。人という皮を被った野生の獣。もう、性欲に溺れた獣になってしまえば己が人だとは口が裂けても言えない。


 罪悪感はあった。


 だが、それもが甘い蜜の様に啜ったのだ。


 それが、私。


 正気に戻ったところで、既に汚れ穢れた私はオスに従う下劣な獣畜生。


 何度も願った。


 これは、悪い夢なんだと。


 早くこの長い悪夢から醒めてくれと。


 どうやっても、醒めることは無い現実。


 そして、もう二度と取り戻せない大切な人。


 何故…………何故、彼は私を殺さなかったのだろうか。


 未だ現実を受け入れなれない私は、彼はまだ私を愛してくれていたのかもしれないと愚かな解釈をすることもあった。


 正気に戻っても、再び獣になっても思い出す。


 彼との出会いを、この恋心を、そして培われた恋心が愛になったことも。


 愛の誓いをした刹那、現実へ引き戻されてしまう。


 

 酷い話だ。


 

 何がどうであれ、裏切ったのは私だ。彼を殺したのは私だ。


 【勇者】に自由はない。人並みの幸せも抱くことも許されず、人類の兵器として役目を果たす。それを私は、貴方を幸せにしてみせると宣言して、これだ。


 吐き気がする。


 結局、私も醜い欲望の塊そのものだったわけだ。


 一方的に彼を愛して、一方的に傍に寄り添い、一方的に欲望に溺れ、一方的に、彼を殺した。


 私は悪魔……いや、淫魔の生まれ変わりだろうか。全くもって、度し難い。


 そんな己が醜かったからなのか。それとも己はこんな醜悪な女ではないと、それを正す…………今思えば、そう証明がしたかっただけなのだろう。


 自分は悪くない、自分は醜くなんてない、自分は正しいのだと……そう、正当化をさせたかっただけ。自分の為だった。


 だからこそ、私は【勇者】代行となったのだ。


 ―――――――――――正直に言えば、今思えば何故己が【勇者】代行となったのかは、鮮明に覚えていない。要は、理由なんてとうの昔に忘れたんだ。まあ大方、前に話た理由なのだろう。


 【勇者】の代行として、人類を守り、そして世界をも救った。



 その時には【勇者】代行ではなく、人々から【勇者】と呼ばれるようになった。そして、本来の【勇者】である夫の名は、徐々に風化してしまったのだ。まるで、夫は偽物の【勇者】であり、私こそが【勇者】なのだと。


 全く持って……私は、何をしたのだろうか。


 何故、夫が貶められてしまうのか。


 私が悪いことは、誰もが知っている筈。なのに、何故、私を責めない。何故、夫を責める。


 わからない。


 全くもって、わからない。わからないんだ。


 私が本心で、偽善で、贖罪に、夫の為にしてきたことが、全て、夫を貶めるものとなる。


 そして、何時か私は夫に殺されるのだろうと、呪われるのだろうと思っていた。殺しておいて尚、己の名誉を傷付けたのだから。


 

 「ここで、いいか」



 私は今、小さな花畑にいる。


 そこは、私の故郷であり、夫が大切にしていた場所。


 失って、夫との思い出の形見はこの場所だけ。


 

 「……………」



 私は右手に持つ“聖剣”を掲げ、そして己の胸部に刃の尖端を向ける。


 恐怖はない。


 ただ、私は地獄に墜ちる運命なのだと自然と潔くハラに決めていた。


 けれども、せめて。


 私が今でも鮮明に思い出すあの人との出会いの場を、この目に焼き付けて死のうと思っていた、


 

 「―――――――――ッ」



 一息で刃を己の身体を刺し貫かれた時、一輪の蕾が芽を出した。そして、その蕾は花開くことはなく、ただただ己の自己満足(自分勝手)にその場で朽ちるのであった。

 


 

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