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千年呪妃  作者: 黒崎リク
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第二話 邂逅(1)


 四海奇貨館に勤めるのは、警備員を除いて四名。

 館長の周徳と主任の林浩宇りん こうう、事務員の陶静美とう せいび、そして新しく入った晩霞だ。


 所蔵品や建物の規模に対して人員がかなり少ないのではと思ったが、四海奇貨館が博物館として開放されるのは週に一回程度。予約制なので受付に常にいる必要は無く、急な来客があっても、玄関横の警備室にいる警備員がまずは応対してくれる。

 業務は周館長の話の通り、収蔵物の資料作成や管理作業がメインであり、修復がある際は専門家に依頼する。警備の都合上、残業は基本的に無く、普通の博物館と違って土日や祭日は休みとなっていた。

 企画展の準備や校外学習がある時は忙しいが、そうでない時はそれぞれ空いた時間に研究したり論文を書いたりと、だいぶ自由な職場であった。


 奇貨館に長年勤める事務員の陶は、明るく世話好きなおばさんで、新人の晩霞に気さくに接してくれる。一番年の近い(と言っても一回りは離れているが)林主任は、寡黙で一見とっつきづらそうではあるが、業務について尋ねれば丁寧に、そして熱心に教えてくれる。周館長と同じ研究好きなのがよくわかった。


 四海グループのセキュリティ部門から派遣されてくる警備員と顔を合わせるのは、館を出入りするときくらいだ。目深に被った帽子の鍔ではっきりと顔を見ることはないが、時折、鋭い目線が送られてくる気がする。

 晩霞がまだ新人だからだろうか。四海奇貨館には高価なものが大量にあるので、最初の内は警戒されるのかもしれない。挨拶だけはするようにしているが、今のところ距離が縮まる様子は無かった。


 警備員の件はともかく、人数も少なく皆親切なおかげで、そこまで人付き合いが得意でない晩霞でも三日で職場に馴染むことができた。

 初めての一人暮らしの方も、借りているマンションの部屋は最新の設備が整い、広々として快適なうえ、駅から近くセキュリティも万全で安心だ。


 新社会人の生活は、驚くほどに順風満帆だ。それこそ、転生漫画の主人公のように。

 こんなに恵まれた環境に自分が居ていいのかと逆に不安になってしまうのは、過去に幾度も転生して地獄のような経験をしてきたせいか。順調すぎると怖くなるというか、心の底から思いきり幸せに浸れない癖がどうにも抜けきらない。

 ……いやいや、ここは素直に喜んでおこう。

 きっと前世の因果を断ち切ることができたのだ。今生でようやく、深く重い業への償いを終えたのかもしれない。

 そう自分に言い聞かせながら、晩霞は早く仕事や新生活に慣れるため、日々を忙しくも楽しく過ごしていた。





「晩霞ちゃん、今日のお昼どうする? 広場のキッチンカー、今日からオープンする店があるのよ。ケバブのお店なんだけど、行ってみない?」

「あっ、はい、行きます」


 初日にお昼ご飯をどうするか悩んでいた時、陶に誘われて以来、緑地公園の広場に出店しているキッチンカーに買いに行くようになった。

 周館長や林主任も一緒に行ったり、二人からお使いを頼まれたりすることもある。そのまま公園のベンチで食べることもあれば、持ち帰って休憩室でそれぞれ食べたりと、その日の気分によって変えていた。

 小さなバッグにスマホを入れて、新しい物好きな林主任からケバブのお使いを頼まれた晩霞は、陶と一緒に外に出た。

 勤めて一週間になるが、敷地を囲む檻のような鉄柵を出入りする時は、何だか緊張してしまう。前世で檻に入れられていたせいかもしれない。

 門を通り抜け、高い鉄柵の圧迫感が無くなって、ようやくほっとする。

 隣を歩く陶は慣れたもので、「あれ、動物園の檻みたいよねぇ」と言ってくるので、心を読まれたかと内心でぎょっとした。


「そ……そうですよね。やっぱり奇貨館にあるのが貴重なものばかりだから、警備も厳重になるんですね」

「そうねぇ。でも、あの柵ができたの三年前なのよ。それまでは建物だけで……あ、もちろん警備はしっかりしてたんだけれどね。ほら、お偉いさんの接待だけじゃなくて、慈善事業で校外学習に開放するようになって、来た学生がSNSに勝手に画像をアップしちゃって。最近の若い子って、すぐにそういうの投稿しちゃうじゃない、怖いわよねぇ。それで少し騒ぎになった時期もあってねぇ。あ、もちろん今はちゃんと投稿は削除されているらしいわ。

 ま、それを機に金持ちのコレクターが来たり、ちょっと怪しい感じの連中も来たりするようになっちゃったのよ。たいていは警備員に捕まったり、追い返されたりしてるけどね。あ、そうそう、セキュリティ部門の部長さんが若くてイケメンなのよー、いつも怖い顔してるけど」


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