表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
千年呪妃  作者: 黒崎リク
19/25

(11)


 企画展の準備は、学生時代の実習でも行ったことがある。

 テーマを決め、展示する資料を選定し、展示の構成を考え、予算やスケジュールを立て、掲示用の資料を準備し、展示して開催に至る。

 流れはシンプルだが、外部への後援や出品の交渉、予算の計上と調整、掲示するパネルに載せるキャプション(説明文)作成のための調査研究、図録やポスター作りのための写真撮影から印刷、券や販売用のグッズを外部へ依頼して調整を繰り返し……と、実施に至るまでの下準備は複雑で手間暇が掛かる。テーマを決めてから開催に至るまで、大きなものでは数年掛かることが多いそうだ。実習でも、一年をかけて行ったものだ。


 もっとも、四海奇貨館で行われる今回の企画展は、すでにテーマも展示する資料も決まっている。外部への後援や出品の交渉は無く、予算は楚天華がいれば問題なく通る。広報や販売は行わないので、ちらしやポスター、グッズや図録も作らなくていい。

 晩霞達が行うのは、展示会場のレイアウト、展示物のキャプションやパネルの作成、来場者用の簡単なパンフレットの作成がメインだった。

 準備期間は二か月と短いが、外部とのやり取りが無い分負担は少なく、通常の業務も普通の博物館に比べれば少ないので、企画展に力を入れることができる。

 だが、初めてで、しかも展示の一部を任されることになった晩霞には不安の種が多い。実習のおかげで流れは知っているが、学生気分でやっていた時とは違う。

 私設博物館ながら、収蔵品は超一級の四海奇貨館。心せねばと、晩霞は自分に割り当てられた展示のシナリオ案を作った。


 展示には、テーマに沿ったストーリーが必要だ。入り口から出口まで順路に沿って進む見学者が、展示の説明を順番に追い、テーマを理解できるように工夫する。そのためのシナリオを作って、会場のレイアウトを決めていくのだ。

 晩霞が割り当てられたのは、五代十国時代の『十国』の方だ。林主任と一緒に担当する。


 五代十国時代は、唐の滅亡から北宋の成立までの間に起きた、華北・中原を統治した五つの王朝(五代)と、その周囲の地域を支配した地方政権(十国)が興亡した時代である。

 五つの王朝は後梁・後唐・後晋・後漢・後周、十国は前蜀・後蜀・呉・南唐・荊南けいなん・呉越・びん・楚・南漢・北漢とされている。

 展示会では、五代がメインになる。文物や資料も多く、五十年の間に様々な者が玉座を求め、奪い奪われていく波乱万丈な歴史はストーリー性も見応えもある。

 だが、晩霞は十国の方に興味があった。広い大陸にあった国々は、土地土地で文化や産業が大きく違う。

 最初は、前世の自分がいた国と近しい文化を調べるのが目的だったものの、調べれば自分の知らないことが多く出てきて、面白かったのだ。

 当時の自分ももっと外に目を向けるべきだったのかもしれない……と考えそうになり、ふるふると頭を振って、パソコンに向き直る。

 ひとまず、十国の位置関係を地図で示し、年代を年表にまとめるのは必須だ。

 今回掲示する展示物は、南唐の物が多いようだ。南唐は江南に割拠した国で、文化的・経済的に繁栄し、十国の中では最大の勢力を誇っていた。戦乱が相次いでいた華北に住んでいた文化人達が南方に避難し、彼らの避難の受け皿となった南唐は、文化を大いに発展させたのだ。

 ならば南唐をメインに……いや、一番南にあった南漢も捨てがたい。

 建国者である劉隠りゅう いんの遠祖がアラブ系という説は何ともドラマチックだし、南海貿易で巨額の利益を得て造られた王宮は豪華絢爛。

 また、唐の時代に権力争いに敗れ、この地に左遷された官僚達の子孫や戦乱から逃れてきた人士を積極的に政治に取り入れ、軍人主導ではなく文官優越の比較的平穏な治世を行った。のちに宦官が重用され、当時の国民の成人男性の一割近くが宦官となる状況になったことで、人心は乖離し、後に滅びることになる。


 ……ひとまず各国の要綱をまとめて、どの国をメインにするかは林主任に相談しよう。


 そう決めて、晩霞はうんと伸びをする。

 晩霞がいるのは、三階の保管室だ。作業やミーティングに使う大きなデスクがあり、そこにノートパソコンと資料を広げていた。少し離れた場所には林主任もいて、晩霞と同じように作業をしている。

 昼食後からずっと作業をしており、もう十五時を回っている。休憩ついでにお茶でも淹れてこようと立ち上がった晩霞の鼻を、ふわりと爽やかな香りが擽った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ