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千年呪妃  作者: 黒崎リク
10/25

(2)


 晩霞の動揺など気にせずに、陶はぺらぺらと話し続ける。


 陶は四海奇貨館では十年以上働く一番の古株であり、情報通の彼女は話のネタに尽きない。名前には『静』と付いているが、おしゃべり好きなのだ。

 陶からの情報で、周館長は三年前に別の博物館から引き抜かれてきただとか、林主任は愛妻家で毎週必ず花を買って帰っているだとか、上司や先輩の内情を図らずも知ることになった。

 陶が話している間にプラタナスの道を抜け、キッチンカーが並ぶ広場に出る。

 新しくオープンしたというケバブサンドの店には行列ができていたが、昼食にはまだ少し早い時間であったので、それほど待たずに買うことができた。

 肉や挟む具、パンの種類を選べたので、陶は鶏肉のケバブを細長いバゲットに、晩霞は牛肉のケバブを焼餅シャオペイ(丸いパンのようなもの)に挟んだものにした。玉ねぎやレタス、トマトにポテトなど、たっぷりの野菜も入っていて、ボリューム満点だ。林主任には一番オーソドックスで人気のある、香辛料の効いた羊肉のケバブをピタパンに挟んだものを選んだ。

 香ばしい匂いが漂い、出来立てを頬張りたいところだったが、林主任が待っているので四海奇貨館まで持ち帰ることにする。

 陶と気持ち早足で戻っていると、鉄柵の向こうの前庭に白塗りの高級車が停まっているのが見えた。それを見た陶が、ぱっと顔を輝かせる。


「あら! オーナーが来ているみたいね」

「オーナー?」

「ええ、通称なんだけどね。四海グループの社長の甥っ子さんで、まだ若いから役職についていないの。今は各部門を回りながら勉強中らしいけど、まあ若いのに博学で物腰柔らかくて謙虚で真面目で、重役達から大人気なのよ、これが。しかもね、とっっってもイケメンなのよ! ほら、今人気の歴史ドラマに出てる国宝級イケメンの俳優に似てて……あら、名前なんだったかしら――」


 セキュリティ部門の部長といい、この会社はずいぶんイケメン率が高いことだ。もしかしたら陶にとって若い男性は皆イケメンなのかもしれないが。

 晩霞が頭の片隅で思っている間にも、陶の話は続いている。


「それでね、オーナーは歴史や美術品にも詳しくて、話もお上手でね、四海奇貨館での接待や管理を任されているの。だからオーナーって呼ばれているのよ。でも、おかしいわねぇ、今日は接待の予約は入っていなかったはずだけれど……新しい所蔵品を持ってこられたのかしら?」


 不思議そうに言いながら、陶は足を速める。晩霞も少し駆け足になって、四海奇貨館へと戻った。


 できたばかりのスタッフカードを入り口に通し、顔認証をしてロビーに入ると、周館長と話す青年の後ろ姿が見えた。

 背の高い青年だ。高級そうな光沢のあるネイビーのスーツに身を包み、小さい頭にすらりと伸びた長い手足を持ち、スタイルがとても良い。顔を見なくても「これは確かにイケメンだ」と思えるほどだったが――。


 どくり、と晩霞の心臓が嫌な感じに跳ね上がる。


 似ている、と唐突にそう思った。


 誰に?


 決まっている。あれは……


 いや、違う。気のせいだ。そんなことあるはずがない。


 記憶のはるか遠い向こうにある、ぼんやりとしか思い出せないはずの彼の姿がちらついて、青年の後ろ姿に重なった。

 足を止め立ち尽くす晩霞に気づかずに、陶は周館長達の方へと近づく。足音に気づいたのか、青年がこちらを振り向いた。


「っ……」


 その顔を見て、今度こそ晩霞は息を呑んだ。

 象牙色の肌に濃い蜜色の瞳。緩く癖のある髪が縁取るのは、ロビーに展示される玉のように精巧に彫り込まれ、磨き上げられた美しい顔。

 柔らかそうな唇が、切れ長の大きな目が、ゆっくりと細められて艶然とした笑みを作る。


『我が君――』


 青年は、かつて呪妃を裏切った男――『小華』に瓜二つだった。




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