層
梅雨、何処行った?
魚鱗のような、砕けた氷が溶けていく
格好付けて注文するも大して好きでもない濃色が薄まりに薄まり
二層に分かれた、液体
管の紙袋を蛇腹に下ろす
杯の液体を一滴、管で吸い取り垂らした瞬間、もぞもぞ動く
「芋虫」
呟くも笑ってくれる彼奴はいない
ああ、然ういや不器用な俺とは違い
器用な彼奴は桜の輪っかを作っていたっけ
二層に分かれた、液体
何処迄も澄んだ上の層は彼奴の居場所
何処迄も濁んだ下の層は
突っ込んだ管で液体を掻き混ぜる
杯の縁に口を付けて飲み干せば何とも味気ない
俺の居場所
昭和 懐古趣味な店内に流れる
昭和 懐古趣味な音楽に聞くともなく聞く
如何でも好いくらい先延ばす癖が付いた
「特攻隊長」の名が廃る
其れでも根が生えた尻を年貢の納め時とばかりに浮かす
遊戯卓上に冷珈琲代、小銭を放る
思いの外、転がり硝子の杯に当たった結果、何とも耳障りな音を奏でた
自分勝手に顔を顰める俺に競馬新聞越し
「毎度」
と、言い捨てる店主に空笑う
借りてきた猫のように背中を丸めて辿り着く
此の空間に存在する
何物よりも
何者よりも活き活きとしている花束を無造作に置く
「希望」と刻まれた、墓石
「誰」が「誰」に言う言葉なんだ?
「誰」に「誰」が言う言葉なんだ?
「俺」が「彼奴」に言う言葉なら最初から最後迄、一貫している
「会いたい」
此の手が震える
此の足が立っていられない
彼奴に会えるのなら俺は地獄の淵に此の身を投げる