果実
大学時代に書いたものです。
例によって星新一のショートショートに影響を受けた作品です。
ダークな雰囲気ですが、そこまでグロはないです。
ただ基準が分からないのでとりあえずR15つけてます。
「今年もあとすこしで実がなる季節だな」
「そうですね。これでまた遊んで暮らせますよ」
二人の男が大きな木の前で青々と茂った葉を見上げながら話していた。この木は初夏に大きな実をつける。男たちはその実ができるのを心待ちにしていた。
「去年は大変でしたね。肥料がなかなか見つからなくて、私なんか遠くまで引き取りに行きましたからね」
「それは夏のことだったな。涼しかったとは言え、暑さで肥料がダメになるかと思って心配したもんだ」
「冷夏だったから、例年に比べて量が少なかったのも残念でしたね」
「まあそれは仕方ない。それでも実ひとつで数百万は手に入るんだ。楽な仕事さ」
「なんだか今からわくわくしてきました。早く実をつけないかなあ」
「おまえは金が手に入ったらどうするんだ。また遊ぶのか」
「私ですか。そりゃもちろん遊びますよ。金は使うためにあるんですから。とにかく使い切るまで遊ぶつもりです」
「なるほど」
「そう言う自分はどうするんです」
「俺は、娘を。いや、何でもない。忘れてくれ」
数週間後。男たちは再びこの場所に来た。
「実ができてますね」
「ああ、さっそく回収作業に取りかかろう」
二人は手分けして大きな実を木から下ろし、慎重に傷つけないよう車の荷台の中へ積んだ。実はとても柔らかく、中が透けていて、赤や黒の物体が脈動しているように見えた。実を全て積み終えてから荷台の扉を閉め、二人は車に乗り込んだ。
「いくつあるか数えたか」
「十二個ありましたよ。肥料の数は十三個だから一個足りないですね」
「それでいい、売りに行くぞ。新鮮なものじゃないと売れないからな」
そのまま病院へと急いだ。実は全部で一千万円以上になった。
男たちは車に戻って病院を後にした。
「やりましたね。これでまた大金持ちですよ。さあ、早く金を分けましょう」
「そのまえに、お前に、頼みがあるんだが」
「なんです」
「今回のお前の分け前は、なしにしてくれないか」
「いったいなぜです。理由を教えてもらわないと」
「俺の娘は今、手術して心臓を移植しないと助からない病気にかかっている。金を分けたら手術を受けられない」
「事情は分かりましたが、私の予定はどうなりますか。そんなこと、嫌に決まっています。今まで溜めた金を使えば良いではないですか」
「今までの金はもう使ってしまった。だから、どうか頼む。来年は全てお前にやるから」
「私が私の金をどう使おうと勝手です」
「そうか。なら仕方ない」
男はぱっと灰皿を掴んで、助手席に座る男の頭を殴りつけた。
一発。二発。三発。四発。
助手席の男のうめき声が止まった。男は車を急発進させた。
男は木のある場所へ戻って来ていた。手には大きなスコップを握っている。
「これで、来年の一個分の肥料になるな」
男は木の根元に掘った穴に、虫の息の肥料を引きずり落とした。そして土をかけていく。
男が肥料を埋めて、車で走り去った後、木から大きな実が落ちてきた。
地面に落ちた実からは、人間の臓器が飛び出していた。
いかがでしたでしょうか。
やっぱりショートショートはさっくり読める文章量なのが魅力ですよね。
ただその分オチが重要なので、この文章量でもけっこう、ああでもないこうでもない、と考えていた記憶があります。