6 想像と創造
「…………………………………………………………………」
カミ子さんの長い沈黙。だが目線で大体何を言いたいかはわかる。『二年間も時間をかけた末にいきなり何を言い出すんだ、前々からおかしいやつだと思っていたがやっぱりとんでもなくやべえ奴だったんだなこの陰キャ童貞クソ野郎は』とかそんなところだろう。
「そこまでは思っていませんよ。せいぜい『~陰キャ童貞クソ』までです」
「ほぼ思ってんじゃないですか」
「それで、美少女になるってのはどういうことですか?頭がおかしくないというのであれば、説明してください。さもなくば強制的にノミに転生するスイッチを押しますよ」
何そのスイッチ怖い!
「さっきも言ったように、どんな見た目だろうが男として女の子と仲良くなると反感を買います。だったら話は簡単で、自分が女の子になればいいんですよ。これからの時代は俺TUEEEEEEではなく、俺KAWAIIIIIIです。どぅーゆーあんだすたん?」
「……話が馬鹿らしくて脳が理解を拒んでいます」
「それに、どんな時でも付き合いはまずは友達から、じゃないですか。男が女の子にまずは友達からって言ったらそれはほぼ告白ですけど、女の子同士なら何でもないただの挨拶や自己紹介みたいなもんです」
英語だと前者はアイラブユー、後者はナイストゥーミーチュー。この差は大きすぎる。
「女の子同士でもそんなに簡単なものではないと思いますけどね。というか、童貞はどうするんですか。女の子に転生したら、あなたは一生陰キャ童貞クソ野郎のままですよ?」
「女の子と仲良くなれるなら、童貞なんてその辺に捨ててやりますよ!これからおれは陰キャ童貞美少女として生きていくんです!」
「……もういいです、好きにしてください。なんだか頭痛くなってきました……」
そういうとカミ子さんはまた部屋の隅へと下がっていった。女神ってのも大変だなあ。
さて、とおれは再びパネルと向かい合う。もうこのパネルも散々使いこなしたものだし、操作はお手の物だ。両手に別々のパネルを展開してまるでピアニストの様に指先を動かしていく。目は常に流れてくる情報をキャッチし、脳は何が最適かを瞬時に判断していく。
そうしてあっという間に「ぼくがかんがえたりそうのびしょうじょ」の第一弾が完成した。完成したのだが……
「どれどれ……う、んん?」
横から覗き込んできたカミ子さんが何とも言えない声を漏らす。まあ概ねおれも同じ感想だ。
ありていに言えば、可愛くない。とりあえずサンプルとして登録されている目や鼻の中からこれだ!と思うものを選んでアバタ―を作ったんだが、『思ってたんと違うー』って感じだ。何故だ。可愛いは作れるって言ってたのは嘘だったのか。
「まあ結局好みの問題じゃないですか?科学的な判断で美しいとされる目や鼻を集めて顔を作っても、あなたがそれを可愛いと思うかは分からないじゃないですか」
確かにそうかもしれない。だとすると、今までの人生で可愛いと思った人をベースに考えた方がいいのだろうか。
という事で、記憶を探る。テレビの中の女性芸能人、高校の時に密かに好きだった同じクラスの女の子、よく行くコンビニのレジのお姉さん、あとは……
「……なんですか?急に私の事を見て」
「カミ子さんって、よく見たらすげー可愛いですよね」
「っ!何ですか急に!……さては私で童貞を卒業しようと!?」
そんなつもりは毛頭ない。ただ、目の前にいるから丁度いい。まずはカミ子さんをベースに考えてみるか。
「作り直すんですか?……髪は金色で?ずいぶん長いんですね。そして碧眼。今回はずいぶん西洋風、というかファンタジー寄りですね。まつ毛も長いですし。見た目は……18歳から20歳くらいですかね。体系は……何で私の体を見ながら操作してるんですか?え?ちょっと回ってみてくれ?どうして私が……はいはい、背中でもどこでも見てください。……ってちょっと!今、『こんなもんでいいか』とか言いました!?こんなもんって何ですか……って完全にこれ私じゃないですか!!」
そう、完成したアバタ―はまさにカミ子さんそのものだった。うん、我ながらなかなかの再現度。やっぱり本物が目の前にいると完成度が違う。
ちなみに服装はまだ考えていないため、表示されたアバタ―は全裸である。胸とかの大事な部分は詳細に表示されてはいないが、全裸である!
「本人の目の前で全裸のアバタ―を作るとか、どんなセクハラですか!ゴッデスハラスメント、略してゴッハラで訴えますよ!」
また裁判沙汰はごめんなので、きちんと保存してからアバタ―を新規の物に切り替える。
「保存しますなよ!」
「言葉遣いがおかしくなってきてますよ?大丈夫、あれだけで保存用、観賞用、布教用兼ねてますから」
「何も大丈夫じゃないんですけど!?」
とにかく、この調子で可愛いを作っていくことにする。大丈夫、おれなら出来る。
……多分あと二年くらいまでには。