5 理想と偽装
「……出来た……出来たぞ……!!理想の姿が遂に完成だ……これが新しい自分……」
「いや、もはやあなたの面影ゼロですよね?本当にこれでいいんですか?」
「いやいや、ちゃんと元の自分をベースに考えましたよ。よく見てください」
「いや、もう散々見ましたよ。その上で、あなたと共通している所なんて二足歩行しているところぐらいだと思うんですが。……それで最終決定でいいんですね?あなたの二年間の集大成ということで」
二年間。そんなに経っていたのか。今のおれは幽霊のような存在らしく、食事も排泄も必要ない。考え続けていると頭が疲れてくるため、睡眠は定期的にとってきた。寝る時間以外の全てをつぎ込んできたと言っても過言ではないだろう。
そのアバタ―が……これだ!
外見は16~17歳。かっこよすぎず少年らしさも感じられる年齢にして、見た目は普通の男子高校生だ。
髪は黒髪。ここは譲れない。清潔感を意識したショートヘアにした。ファンタジー感全開の見た目にするなら金や銀の長髪もありだが、そっちの路線は今回はなしにした。
服装は黒をベースにしたシンプルなスタイル。下半身はパンツにブーツ、上半身は白のシャツに黒のネクタイ。そして黒の丈の長いパーカー。ブーツやパーカーには銀の装飾が適度に施されており、少しだけファンタジー感を織り込んだ。
「どうですか……おれの二年間の成果は」
「なんかあれですね、よくいるモブ主人公って感じですね」
「モブ主人公!?なんですかその言い草は!」
「だってなんだか目立たないけど見た目はそこそこかっこよくて普段はあまり喋らないけどいざとなったら率先して仲間を守るような熱い一面を持っていて日常ではどこか抜けている面があって学校の成績はあまり優秀ではないけどピンチになったら頭が切れて戦いになったら冷静に相手を倒して決め台詞は『あれ、おれなんかやっちゃいm』」
「もういいですから!別にそんなキャラ付けまではしてませんし!それに、こういう見た目の方が長く好かれるものなんですよ。お米が何で長く食べて来られてきたか分かりますか?毎日食べても飽きず、何と合わせても美味しいからです。そういうのが大事だと思うんですよね、キャラクター作りに関しても」
「あなたのキャラクター作り論はどうでもいいですが……では、この見た目で登録しますので、『最終決定』を押してください」
はいはーい、と返事をして表示されているアバタ―をもう一度見る。これが新しい自分……この姿で新しい世界に生まれ変わって、どんな人生が待っているのだろうか。冒険、戦い、別れ、努力、勝利、敗北、成長、出会い、恋愛……やばい、ニヤニヤしてきた。
『最終決定』を押した後に、『本当によろしいですか?』と確認が出る。ずいぶんと念入りな事だ。
『はい』のパネルに触れようとした瞬間、指が、というか全身が硬直する。
「どうしました?」
カミ子さんが尋ねてくる。
自分でもなぜ止まったかは分からない。ただ、何か予感というか、何かを見落としているんじゃないかという感覚に陥った。
何だ、何を見落としている?キャラクターには何も問題はない。考えに考え抜いた、おれの理想のキャラクターだ。この見た目なら出会いもあるし恋愛も出来るはず……
そこでふと気付く。そして、『いいえ』を押して、そのまま流れるような動作で黒髪少年アバタ―を消去した。
「はあああああ!?何をしてるんですかあなたは!」
カミ子さんがすごい顔をして詰め寄ってきた。最初に会った頃から比べると随分色々な表情を見せてくれるようになったと思う。
「いや、私の事はどうでもいいんですよ!それよりもなんでせっかく作ったアバターを消してしまったんですか!理想の姿だって言ってたじゃないですか!」
「確かにアバタ―自体は理想の姿でした。そこは問題ありません」
「じゃあなんで……」
「自分を外からの視点で見つめ直してみたんです」
そう、おれに足りなかったのは、自分が他人からどう見られているかという意識だ。確かにあのアバタ―はかっこいい。
「けど、かっこよかろうが何だろうがイケメンが強くて女の子にモテるのを見てイラッとしない男はいないじゃないですか。それで要らぬ反感とか持たれて余計なトラブルとかに巻き込まれるのも御免ですし」
「知りませんよ!そんなのは転生した先でなんとかしてください!……じゃあどうするんですか?もっと普通、あるいはかっこ悪く作り直すということですか?」
「いや、それだと結局同じことが起こります。モブ顔だろうが不細工だろうが、女の子と仲良くしてたらイラッとするんですよ。異世界だろうがどうせ男なんてそんなものです」
「卑屈と偏見がすごいですねあなた。でもそんなこと言ってたら結局女の子と仲良くなれませんよ?人間以外の種族を選び直しますか?」
いや、方法はある。反感を買わずに女の子と仲良くなれる方法が、この世には確かに存在する。それは……
「俺自身が、美少女になる事だ」