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29 バニーガール

いや、バニーガールといっても、アレだ。

 カジノとか、入るのにちょっと勇気が要るようなオトナのお店にいるうさ耳でちょっと露出が多い衣装をきた女性のことじゃない。

 そこにいたのは、文字通りの兎の女の(バニーガール)だった。

 岩の上に堂々と立っている姿かたちは人間に近いが、頭の上からは可愛らしい長い耳が見えているし、腕や足は柔らかそうな毛に覆われている。こちらからは見えないが、おそらくお尻には可愛いしっぽがあるはずだ。

 そんな兎の女の子が、じっとこっちを見ている。最初に声をかけてきたのはあっちの方だし、そのまま待っていると、

「……………………………………………………なんか言えよ!!」

「えぇ!?」

突然キレられた。

「いや、声をかけてきたのはそっちじゃ……」

「そんなのは関係ねえんだよ!こっちはなんかあやしーやつがいたから声をかけただけだ!だったら次はそっちから話すのが当然ってもんだろーが!」

 え、そういうものなの?コミュニケーションってホント難しい……

〈相変わらずコミュニケーションがヘタクソですね〉

え、これ自分が悪いの?まだ一言も発してないのにキレられた時の対処法なんて全く知らないんですけど!?

それでもまずはコミュニケーションの基本、自己紹介をと思い、

「ええと、私たちは─」

「いや、言わなくていい!こんな山道にぞろぞろ連れ立って歩くなんて、間違いない!お前らは悪いやつらだな!」

 すごい勢いで制された上に、問答無用で悪人扱いされた。

「いや、ちょっと待っ─」

「この先はいつも石を掘ってるしょぼくて小さな村があるだけ!そんな変な村に用があるとは思えないし、用があったとしてもお前らも変なやつらに決まってる!」

 いろいろと失礼な上に短絡的な兎っ子だった。

「フン……どうやら何も言えないようだな!つまり、アタシの言ってることを認めたってわけだ!」

 驚きと呆れと戸惑いからなにも言い返せなかっただけだが、誤解されたままなのもよくないと思っていると、

「いきなり出てきてうちの姐さん達のことを不審者扱いとは……ちょっと無礼にも程があるんじゃないですか、お嬢さん?」

 そう言いながら勇ましく前に立ったのはミケルドだ。

 私達を少し後ろにかばうようにして立つその姿は、いつものミケルドとは違う「何か」を感じた。

「あぁん?なんだお前は?」

「自ら名乗らない無礼者に対してこちらが名乗る義理もありませんが……まあいいでしょう。我が名はミケルドゥバアッ!!」

 残念ながらミケルドの名乗りを最後まで聞くことは出来なかった。何故なら、一瞬前まで大岩の上にいたはずの兎っ子の足がミケルドの顔面にぶち込まれていたからだ。

「な……!?」

 突然のことに驚く私達に対し、兎っ子(ミケルドの顔に乗ったまま)が不敵に笑う。

「遅いんだよなぁ……前に出てきたからお前が一番強いと思ったんだけど、全然だな!」

 そのままミケルドの顔を踏み台にして後方に跳びあがる。蹴り飛ばされて地面に転がるミケルドと対照的に、兎っ子は空中で回転してから綺麗に着地した。

「ミケルドさん!」

 急いでエルルと共にミケルドに駆け寄る。幸い、鼻血が出て気を失っているが無事なようだった。

「それで?次はどっちが相手になるんだ?」

 戦う気満々といった感じでこちらに問いかけてくる兎っ子。というかなんで完全にバトルモードになってるんだろう。

「そっちの大きいやつは全然だったし、次はもっと楽しませてくれよな!」

「こっちは別にあなたを楽しませるつもりはないんだけど?まずは冷静になって……」

「なるほど、今度はお前が相手か!」

 こりゃダメだ。言語は通じているはずなのに、全く話が通じていない。兎って耳はいいはずだよね?

「しょうがない。まずは大人しくさせて、話はそれからだね」

「だ、だいじょうぶ?おねえちゃん」

 まあ大丈夫だろう。ここはエルルが出るまでもありませんよ、私に任せてくださいってやつだ。

〈それ死亡フラグじゃないですか?……惜しい人を亡くしましたね〉

 いや、まだ死んでないし、ここで死ぬつもりも全く―

「それじゃいくぞ!」

 兎っ子の声が響いたと思った瞬間、私の目に映ったのは柔らかくて撫でたら気持ちよさそうな─


足だった。


 周囲に走る衝撃。

 あまりにも早すぎて、自分が蹴られたことにしばらく気付かなかった。

 

「ハハッ!なんだ、お前も大したことないな!」

 私に蹴りをぶち込んだまま笑う兎っ子。

 それに対し私は、

「くんかくんかくんかくんか」

「何嗅いでんだテメエェーーー!!!!!」

「可愛い女の子に顔面を蹴ってもらったらまずは感謝!そしてそのまま思う存分堪能するのが礼儀ってもんでしょうが!」

「な……何言ってんだおまえ……?くっ!」

 私にぶち込んだ右足を軸にして、そのまま体をひねりながら今度は左足の蹴りを叩きこんでくる。

 正確に首筋を狙ってきたその足は―土と草の匂いと、何とも言えない良い匂いがした。

「嗅ぐなぁぁ!!!」

 両足を振りほどき、そのまま跳び退り距離を取る兎っ子。

「おまえ……どういうつもりだ!?」

「私の生まれ故郷にはね、右の足を嗅いだら左の足も嗅げ、という教えがあるんだ」

「どんな教えだよ!?」

〈初めて相手に動揺の色が見えましたよ。さすが相手をひかせることにおいては天才的ですね。心の底から軽蔑します〉

 褒められてる気がしないと思ったらやっぱり褒められてる気がしなかった。

「というかお前……何ともないのか?あたしの蹴りをもろに食らったはずだよな?」

「うん、確かにあなたの蹴りは二発ともちゃんと私に当たってたよ。」

 ならどうして、という顔をする兎っ子に対し、続ける。


「でも大丈夫。何故なら私は……健康だから!」


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