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27 朝食と報告

 新居での二日目。実に爽やかに目が覚めた。柔らかく差し込む朝日。外からかすかに聞こえてくる鳥のさえずり。傍らには安らかに眠る美少女。

「…………うん?」

 まだ脳が覚醒しきっていないため、状況がよく分からない。とりあえず大きく伸びをしてから、改めて確認してみる。

 横に寝ていたのは、昨日先に寝室に入ったはずのエルルだった。二階には寝室が二つあり、自分とエルルは別の部屋で寝たはずだった。つまりこれはあれか。アニメとかでよくある、トイレとかに起きた後に寝ぼけて別の布団に入ってしまった的な展開か。

 横向きで体を少し丸めて寝ているエルルは、穏やかな寝息を立てている。蒼銀色の髪が朝日に照らされている様子は、絵画として残しておきたくなる程に美しい。

「危なかった……自分に絵心があったら、この世界の美術史に残る傑作を残してしまう所だった」

〈何の心配をしているんですか〉

「せめて心のキャンパスにはしっかりと残しておこう……いや、視覚だけじゃ物足りないかな、五感全てに焼き付けなきゃ……」

〈お巡りさーん!!ここに危ないことを言っている不審者がいまーす!〉

頭の中が何だか騒がしいが無駄な事だ。この村に警察がいないことはこの村での数日で分かっている。

〈不審者じゃなくて犯罪者でした!誰か早く来てくださーい!〉

 さてさて、まずはどこから堪能してやろうかと考えていた所―

「おはようございます姐さん!お嬢!今日もいい日ですね!ですが何やら村長さんがお困りのようでしたよ!どうです?一緒に話でも聞きに―」

無駄に通るいい声を響かせながら部屋に入ってきたのはミケルドだ。

「女子の寝室にノックもなしに入ってくるな!」

 とっさにベッド横の小棚に置いてあったよく分からない木彫りの像を投げつける。

 私の怒りを込めて飛んでいくそれは、寸分違わず狙い通り、ミケルドの眉間にクリーンヒットして、快音を響かせたのだった。


 一度ミケルドを寝室から締め出して着替えなどを済ませ、一階の居間に場所を移してから話の続きを聞くことにする。

 ちなみにテーブルの上にはミケルドが用意した朝食が並んでいる。

「姐さん達が着替えている間に朝ごはん用意しておきますね!」とか言っていて、正直話半分くらいで聞いていたのだが、準備を終えた後にテーブルに並べられたものを見て驚いた。

 そこには思った以上に「ちゃんとした」朝ごはんが並んでいたのだ、

 野菜が多めに入ったリゾット、根菜のスープ、サラダに果物……盛り付けもきれいで、栄養に気を遣ったメニューであることは見るからに分かる。

「ミケ……本当にあんたが用意したの?この朝ごはん」

「当たり前じゃないですか!姐さん達にはお世話になってますからね、身の回りのお世話くらいはさせてもらいますよ!」

 うーん、イメージが違いすぎる。焼いただけの肉にかぶりついてヒャッハー!とか言っているのがお似合いの外見なのに。

「それにしたって、私たちが着替えとかしている間に用意できたとは思えないんだけど……どうやったの?」

「それは内緒です☆」

 うざっ。ご丁寧にウインクまで付けてきた。そして不覚にもちょっとだけ可愛いと思ってしまった自分が悔しい!見た目はただの筋肉ダルマなのに!

「まあいいや。ミケが頑張って用意してくれた朝ごはんだもんね。ありがたくいただこうか。ね、エルル?」

「うん……むぅい……えひゅ」

私の横に座っているエルルから返ってきたのは、ほとんど返事になっていない返事だった。椅子に座ってはいるものの、体重をほぼ自分に預けてまだしばらくは夢の世界から戻って来なさそうだ。

一緒に二階から降りてきて以降、ずっとこの調子だ。は虫類の蛇や亀は暖かくなってから行動が活発になるイメージだけど、竜種であるエルルも同じなんだろうか?

「それで?村長さんが困ってるみたいなこと言ってたっけ?」

 とりあえずサラダを自分の皿に取り分けながら話を聞いてみる。

「そうなんですよ。まだ詳しい話は聞いていないんですけどね。なんでもマヤノ村の方で何か困ったことになっているみたいで。あ、マヤノ村っていうのはここから一番近い村なんですけどね。山間にある小さな村で、主に陽光石とかの鉱物を採掘する事を生業にしているらしいです。

 イマノ村とは、お互いの村での特産品を交換し合って交流があったみたいですね。マヤノ村は陽光石や鉄を、イマノ村からは農産物や食料品などを、という感じで。」

「ほうほう」

 サラダをもしゃもしゃと頬張りながら話を聞く。

 新鮮な葉物のシャキシャキとした歯触りと、ドレッシングの酸味がまだ覚醒しきっていない脳と体に程よい刺激を与えてくれる。

 「ところが、数日前に来るはずだったマヤノ村の人達がしばらく来なかったらしいんですよ。まあ一日くらい遅れたりすることはよくある事らしいんですが、今回は少し遅いなと村長さんたちも心配していた所、今朝イマノ村に到着したとのことです」

「よかったじゃない」

 次はスープに手を付ける。具だくさんのスープは素材のうま味が溶け合い、それが自分の体に染み込んでいくような幸せな気分にさせてくれる。体も何だか温かくなって来た気がするし、生姜か何かが入っていたのだろうか?

「それがですね、遅れたのには理由があるらしいんですよ。マヤノ村は山の中にある村で、イマノ村に来るのにも山道を通ってくるんです。その途中、人の身長くらいもある大きな岩がいくつも道をふさぐように落ちていたそうです」

「落石ってこと?」

「はい、ですがここ数日でその原因となる大きな雨や地震はありませんでしたし、マヤノ村の方でも定期的に危険がないか見回りはしているらしいんです」

 ……そうなると、考えられるのは―

「そう、誰かが意図的に道に向かって岩を落としたのではないかということです。幸い滅多に人が通るような道ではないのでけが人などは出ていませんが、マヤノ村の人達も不気味がっているそうです。それで到着が遅くなり、今朝村長さんに報告があった、と」

 それは確かに不気味な話だ。身の丈ほどもある岩を道に向けて落とすなんて、愉快犯の悪戯で済む話でもない。

「マヤノ村の方で何か調査とかはしたのかな?」

「はい、村の男連中が山に入って岩が落ちてきたと思われる辺りを調べたらしいです。その辺りは傾斜がきつく足場が不安定で、マヤノ村の人達も採掘でも入らない場所なんですが、確かにそこに何者かが立ち入った形跡があった、と。そして、調べている最中に村の一人が怪しい影を見たと言っているんです」

「怪しい影……?」

 話の流れとして、その影の人物が今回の件に関わっているのはおそらく間違いないだろう。

「ただ、影しか見えない程の素早さや落ちてきた岩の大きさから、その犯人についてみんなが噂しているらしいんです」

「噂?」

「とても人間とは思えない、と」


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