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25 夕食と入浴

「それじゃあみなさま行き渡りましたでしょうか……カンパーイ!!!」

 自分の音頭に対し、カンパーイ、とみんなが続いてくれる。

 色々あった大掃除もとりあえず一段落し、新居での引っ越し完了パーティとなった。

 参加者は自分、エルル、チンピラ集団、村長夫妻、あとは村の人達が数人といった状況だ。

 ささやかではあるが、村のみんながごちそうを持ち寄ってくれて立食パーティのようになっている。ちなみに乾杯の際に私が飲んでいたのは村の近くの森で採れる木の実のジュースだ。黒に近い赤紫色の実は昔に田舎で食べた桑の実に近く、素朴な甘みと仄かな酸味が口の中に広がりとても美味しい。

「いやーしかし色々ありやしたが、何とか綺麗になりましたね、姐さん!お疲れ様でした!」

「あーはいはい、お疲れ様。ありがとうね、手伝ってくれて」

 自分と同じくグラスを片手に話しかけてきたのはチンピラ集団のリーダー、兄貴だ。昼間の作業中に名前を聞いたんだけど、何だったかな。リカルドだか、マイルドだか。

「やだなあ、もう忘れちまったんですか?ミケルドですよ、ミケルド」

 そうだった。これからはミケと呼ぼう。何かかわいい猫みたいで癪だけど。

「ご、ごめんねおねえちゃん。わたしのせいでたいへんなことになって」

「ううん、気にしないでいいよ。確かに色々あったけど、エルルのおかげで掃除が早く終わったんだから」

 ミケ共々押し流され事件はあったものの、エルルの薬液の効き目は確かなものだった。誇りや汚れを残さず分解し、おまけに速乾性で後には染みも残らない。リビングを始め、風呂やトイレ、二階に至るまで薬液を使ってからは格段に掃除のスピードが上がった。エルル印の洗剤として売れば大ヒット間違いなしだ。売らないけど。

「ほんとう?……それなら、うれしいな」

 えへへ、と嬉しそうに笑うエルル。

「本当だよ。さ、今夜はごちそうがいっぱいだよ。冷めないうちに早く食べよう」

 そう、綺麗になったリビングの中央の丸テーブルの上には、村の人達が持ってきてくれたご馳走が並んでいる。

 鶏の甘辛スパイス焼き、キノコと芋の串焼き、香草のサラダ……

 異世界に来たばかりの頃、食生活はどうなるだろうと心配していたが、今のところは全くの杞憂となっている。

 食材は村の近隣で採れたものを使用し、調理法もシンプルなものだが、イマノ村に来てからの数日で頂いた食事はどれも非常に美味しい。

 串焼きの茸と芋を頬張っているとエルルがやってきて、

「おねえちゃん、おいしい?」

「うん、美味しいよ。エルルもいっぱい食べた?」

「うん!どのお料理もすっごくおいしい!」

 とても満足そうだ。鶏を食べた時に付いたと思われる口の端のソースがなんとも可愛らしい。

「それにね、こんなにいっぱいの人とご飯たべるの初めてだから、すごく楽しい!」

 そう言って、一層の笑顔を見せるエルル。

 言われてみれば、自分も誰かとこうやって食卓を囲むのは久しぶりな気がする。実家に居た頃は家族揃って食事をしていたが、家を出てからはそんな機会もなかった。

〈恋人も友達もいないしぼっちだしコミュ障だし協調性が皆無だからですね?〉

「そこまで言わなくてよくないですか!?」

 ……おおよそ事実ではあるけど。

 久しぶりの大勢での食事は、思った以上に美味しく、そして楽しい。

 この世界に来たばかりなので、当然全ての人と初対面になるのだが、イマノ村の人とのコミュニケーションは自分でも驚くほどに普通に出来ている。上手にというわけではなくあくまでも普通に、というレベルだ。

 この村の人達がみんないい人だからというのもあると思うが、結局は自分次第ということだろうか。自分が他者との関わりから逃げていただけで、自分から踏み出してみれば周りは普通に受け入れてもらえるのかもしれない。

 まあ今となってはそれは知る由もない事だけど。せいぜい前世での反省はこれからの暮らしに活かしていくとしよう。

 そう思いながらグラスを傾ける。中身はジュースだけど。



「ふー、食べた食べたー」

「たべたー」

 そう言いながら、リビングのソファに腰を下ろす。エルルも同じようにしている。

 既にパーティはお開きとなり、片付けも終わった状態だ。既に村長を始め参加したみんなは家に帰り、この家にいるのは自分とエルルだけだ。

「さて、もう夜も遅いし、あとはお風呂入って寝るだけだね」

「うん、おふろ!」

 お風呂という言葉を聞いたエルルのテンションが上がる。

「エルル、お風呂好きなの?」

「うん!ここに来るまでしらなかったけど、おばあちゃんにおしえてもらったの。エルル、おふろすきー」

 エルルは昨日までは村長さんの家にお世話になっていたから、おばあちゃんというのはイアナさんのことだろう。

 掃除した時にこの家の風呂を見たが、貴族が建てただけあってなかなかに豪華な風呂だった。前世での自分の部屋の風呂の倍以上の広さがありゆったりとしたスペースで体を洗えるし、きれいな浴槽もついていた。日本人として、気持ちよく足を延ばせる浴槽があるのはありがたい。

 ちなみに風呂の水は近くの山から引いており、それを陽光石のエネルギーを用いて温めているらしい。

「そうなんだね。それじゃあエルル、先入っていいよ」

「え?」

「え?」

 キョトンとしているエルル。何だろう、何か変な事を言っただろうか。



「おねえちゃんも、いっしょに入るでしょ?」


「え?」


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