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23 新居と舎弟

扉を開ける。

 外からの風と光によって、室内に埃が舞う様子が見えた。

 袖口で口元を抑えながら室内に入り、窓を手当たり次第に開けていく。幸いなことに窓は錆びも歪みもなく開き、光と外気を室内に取り入れてくれた。

 そうして、部屋の全貌が見えてくる。私が入ってきた玄関に続いて大きな部屋があり、中心には丸テーブルやイスが置かれている。奥には長年使われていないキッチンが見えることから、どうやらここがダイニングキッチンらしい。右手には2階へと続く階段の他に扉がいくつか。おそらくトイレや風呂などの水回りの他に、物置きか小部屋があると思われる。

「うん、いい感じだね」

「アイシャお姉ちゃん?どうしたの?」

 換気が終わるまで待とうと外に出てきた私に、エルルが尋ねてくる。

 返事の代わりに頭を撫でながら、その後ろにいる村長さんに告げた。

「ありがとうございます。急なお願いだったのに聞いていただいて」

「いえいえ、これくらいは。むしろこんな埃だらけの家しかなくてすみませんのう」

「そんなことはないですよ。確かに長い間人は住んでなかったみたいですけど、作りとかはしっかりしていますし。こんないい家もらっちゃっていいのかなーってくらいですよ」

 村長さんに案内されたこの空家は、埃こそかぶっているものの外見も中身も人が住むには十分だった。……もしかして事故物件だったりしないよね?

「この家は、中央の都市に住む貴族が別宅として建てたものです。どんな目的があったかは知りませんが、ほとんど使わないうちに持ち主から不要だと言われましてな。正直、あまりいい噂を聞かない貴族だったので、誰も使わず、壊すのも手間だという事で手つかずのまま今に至るということです」

 なるほどね。この家は私が寝落ちした森の近くにあり、イマノ村からは少し離れている。この家で貴族様が何をしようとしたかは知らないが、家もただ建っているよりは使われる方が本望というものだろう。ありがたく頂戴することにする。

 村長さんにお礼を言ってから、まだ状況が分かっていない様子のエルルの前にしゃがみ込んで、伝える。

「エルル。ここが、私達の家だよ」 

「いえ……?」

「そう、ここで起きて、ご飯食べて、一日過ごして、寝て、また起きる。二人で一緒にね。そのための場所が、ここ。今はまだただの建物だけど、これからエルルと一緒に暮らして、二人の家にして行こう。

 そして、村の人達と一緒に働いて時には遊んで、人間の事とかを知っていくの。人間と仲良くなるためには、まずは相手の事を知らないとね」

 エルルの誘拐の事はとりあえず不問とはなったが、このまま無罪放免というのはエルルの為にもならないと思ったので、こういう形を取らせてもらう事にした。

「この村の人たちと一緒に……できるかな……」

「まあ最初は上手く行かない事もあると思うよ。でもそれが普通。最初から誰とでも仲良くなれる人なんて……たまにいるけどさ。何なんだろうなあのコミュ力高いやつらって。こっちの状況とか考えずに距離詰めてきてさ。でも陰キャは陽キャに話しかけられるだけで少しだけ嬉しくなっちゃう気持ちもあって……承認欲求が満たされると同時に、自分はああいう風にはなれないなーって敗北感もあって……」

「アイシャおねえちゃん……?」

〈エルルさんが困っていますよ。さっさと戻ってきてください〉

 いかんいかん、前世のトラウマからくる呪詛の言葉が出てた。

「まあ大丈夫だよ。私も一緒だから。困ったら私に相談してね。一緒に頑張って行こう」

エルルにはまだ戸惑いや恐れも見えたが、

「…………うんっ」

 と、確かな決意を見せてくれた。

「よし、それじゃあまずは―」

「うおおおおおおおおんんんんんん頑張ってくださいお嬢!!!!!俺達も頑張らせてもらいますぜ姐さん!!!!」

私の言葉を遮って泣き声交じりの大声が轟く。声の主は、エルルの頼みで誘拐をしていた集団のリーダー格、兄貴だ。

 この連中は見た目こそアレだが中身はただのチンピラ集団で、名を上げるぜ―とか言って自分の出身の村を飛び出したはいいが結局大したことも出来ず路頭に迷っていた所をエルルに声を掛けられて誘拐の手伝いをしていたらしい。ちなみに以前に持っていた剣やら斧やらはただのレプリカで、もちろん振り回せば武器にはなるが大した殺傷能力は無く、ただのかっこつけで持っていただけとの事だ。

 そんなチンピラ集団も、エルルと同じタイミングで村のみんなに全力で謝罪。一応は許してもらった形になっている。イマノ村の人達が寛大で本当に良かった。

「うるさいなー全く。というかお嬢ってなに。姐さんって誰」

「すいやせん、つい声が大きくなっちまって。お嬢ってのはもちろんエルルのお嬢の事ですよ。俺達もお嬢の生い立ちについては聞かせてもらいやした。過去を乗り越え、種族を越えた理解と友好の為に一歩を踏み出す。なかなか出来る事ではありやせん。俺達に出来る事だったら何でも言って下せえ。拾ってくれたお嬢の為、俺達みてえなモンを受け入れてくれたイマノ村の為、身を粉にして働かせてもらいやす」

 それは大層立派な心掛けだ。それで、姐さんっていうのは。

「お嬢がアイシャさんの事を姉と慕うのなら、俺達にとっては姐さんじゃないっすか。弟思って、何なりと言いつけて下さい!」

「要らんわ!こんなごっつい年上の弟なんて!」

 清楚可憐な魔法使いを目指しているのに、何が悲しくてチンピラの頭領みたいにならにゃならんのだ。

 でもまあ、これからやる事を考えると、人手は多いに越したことは無い。

「それじゃあ、みんなでやりますかー」

「やるって……なにを?」

 可愛く尋ねてくるエルルと、舎弟集団に告げる。


「大掃除!」


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