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21 過去と一歩

「わたしね、生まれてからすぐに、おとうさんもおかあさんも、他の龍からも嫌われて、追い出されたの。仕方ないよね。わたしは、他の龍のみんなとは違ったから。わたしには、みんなとは違って立派な翼もなかった。固い鱗も、鋭い爪もなかった。角も牙も、龍族にふさわしくない中途半端の出来損ない。

 だから、わたしは龍の領域を追い出されたの。龍族の掟として、同族を殺すことは出来ないから。出来損ないだけど、一応は龍族だから、殺されずに追い出されるだけで済んだの。

 そのあと、わたしはずっと一人だった。人間の住んでいる所に行こうとしても、わたしは人間とはちがう。人間には角も牙もないから、怖がられるんじゃないか、嫌われるんじゃないかって思って、近付けなかった。

 それに、わたしには龍族としての力は受け継がれていたの。わたしの一族の力は、毒と呪いの力。周りによくない影響を及ぼす力。わたしが触ると、きれいな花も、かわいい動物もみんな死んじゃうの。

 だからわたしは、一人になりたくてここに来たの。ここで静かに、誰にも迷惑をかけずに、ひっそりと生きて行こうって思ったの」

 「………………………………………(ひしっ)」

「えっ、ど、どうしたの?なんで泣いてるの?なんでぎゅってするの?」

「だっでざああ……生まれてすぐに親からも見捨てられたなんで…がなじずぎるじゃんがあああああぁぁぁ」

「でも仕方がないよ。わたしは他のみんなとは違ったんだし。龍族としてふさわしくないってずっと言われてたし」

「ぞんなごどはないよ!」

 私の大声に、ビクッと身をすくませるエルル。

 私は鼻をすすり涙をぬぐってから、エルルの綺麗な瞳をまっすぐに見つめて話しかける。

「私はこの世界の常識も倫理観も分からない。龍族の掟とか誇りとかも知らない。それでも、親が子を見放して追い出す事が、絶対に間違っているしおかしいってことは言える。それに、エルルが必要以上に自分の事を嫌いになったり、落ち込んだりする必要はないと思うよ」

「………………本当に?わたし、わるい子だよ?友達が欲しくて、怖い龍のふりをして男の人たちをおどして、女の子をいっぱい連れてくるようにさせたりしたんだよ?」

「あー……その方法は、多分正しくはないね。友達を作る方法として、間違ってると思う」

〈万年ぼっちコミュ障のあなたがそれを言いますか〉

 相変わらず痛い所を突いてくる……これはあれだ、持たざる者だからこそ分かる、というか。悲しみの果てに辿り着いた真理とかそういうやつだ。

「でも、間違ったっていいと思う。人間関係……この場合は人龍関係?で間違わない人なんていないし。ずっと一人で生きてきたんだから、これからいっぱい知っていけばいいの」

「これから……」

「もちろん他人と関わることは、いいことばかりじゃない。人に傷付けられることもあるだろうし、自分じゃ気付かないうちにその逆もあって、嫌われるようなこともあると思う。でも、世界には必ずエルルの事を好きになって、一緒にいてくれる人がいるから、大丈夫だよ」

〈さすが、人と関わらなさすぎた果てに死んでしまった人間は言うことが違いますね〉

「だからまずは、私と友達になってみない?」

「えっ?」

 やばい、突然すぎただろうか。ひかれてはいないだろうか。またやってしまったのだろうか。『ちょっと喋ってあげたら浮かれて友達ヅラしてきたんですけどーww』みたいなやつだろうか。うっ、昔の古傷が痛む……

「え、えーとね、私もここにきたばかりでね、友達がいないの。だからエルルさえよければ、友達になれればな-なんて思ったんですけどね、違いましたかねアハハ……」

 オタク特有の早口で一気にまくしたてる。後半はもう蚊の泣くような声だ。

「ううん、違わない。違わないよ?わたしも、友達になりたい……」

 よかったー。ひかれてなかった……友達なんてもう何年もいなかったから不安だった。

 義務教育をちゃんと受けたのに友達の作り方が分からないとか、日本の教育制度に問題があるとしか思えない。元の世界で改革がされているのを望むばかりだ。

〈問題があるのはあなたの性格や行動だと思いますけどね……〉

「それじゃあここから出て、村の人達に謝りに行こうか」

「で、でも……怖がられたり、怒られたりしないかな……エルルは龍だし、ひどいことしたし……」

 確かにその可能性はある。イマノ村の人達が復讐するほど血気盛んな様子もなかったから大丈夫だとは思うが。

「そうだね。でもまずは、正直に話すしかないと思うよ。悪いことをしたらごめんなさい。いいことをされたらありがとう。どんな時でもこれが大事だと思う。……大丈夫、私も一緒に行くから。勇気を出して、一緒に行こう?」

 そう言って、エルルに手を差し出して待つ。この手を取るかどうかは、エルル次第だ。

 エルルはまだ迷っている様子も見られたが、きゅっ、と優しく手を握り返し

「……うん、わたし、がんばる。がんばってみるね、アイシャお姉ちゃん!」

と言ってくれた。


 ……言ってくれたのだが、お姉ちゃんと呼ばれたことによって意識が飛んだ。

 天給によって手に入れた毒も呪いも聞かないこの体だが、可愛さの前では豆腐以上に脆弱らしかった。 

  


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