20 少女と少女
そう、そこにいたのは女の子だった。
ただし、普通の女の子ではない。どこが普通でないかと言えば―
「か……可愛ぃぃぃぃぃぃぃぃぃーーーー!!!!!!!!!」
と思わず叫んで、抱きしめてしまったくらいだ。
〈あー、これは完全に通報案件ですね。現行犯、言い逃れは出来ませんよ〉
カミ子さんが何かを言っているが、全く耳に入ってこない。
自分はこの世界に転生する際に、『理想の美少女』としての姿を選んだ。確かに、自分にとっての理想の姿だった。この世界に来て、周りからの反応も良かった。
ただ、自分はこの時悟った。自分は、理想の美少女であっても、最高の美少女ではなかったのだ、と。
自分一人の想像で作り出したこの姿が、世界最高であるなどと、驕りも甚だしかった。この世界には、自分では想像もつかないような可愛い女の子がいるのだ。現に目の前に、いや今は腕の中だが、それがいる。
「カミ子さん……転生させてくれて本当にありがとうございます」
〈何でしょう……いい言葉なんですが、もう少しいい場面で聞きたかったような気がします。それより、いい加減放してあげたらどうですか?〉
それもそうだ。美少女は世界の宝、独り占めはよくない。
腕を解き、抱きしめていた女の子をもう一度よく見る。
一見、どこにでもいない超絶美少女だ。外見年齢は10歳くらいだろうか。
肌は白く、薄暗い洞窟の中で淡く輝いているようにも見える。特に目を引くのは、青く長い髪と、その隙間から見える短い角だ。
瞳はサファイア青く煌めき、驚いた表情で開いた口からは牙のようなものが覗いている。
「お、お嬢ちゃんかわいいね……お姉さんといいことしない?デュフフ」(あなたは誰?どうしてこんな所にいるのかな?)
〈欲望丸出しにも程があるでしょう〉
いかんいかん、心の声と現実に出す声が逆だった。
「お、おねえさん……だれ?」
女の子は怯えた様子ながらも応えてくれた。どうやら意志疎通は問題ないようだ。
「私はアイシャ。立ち寄った村で問題が起きたって聞いて、それを解決するためにここに来たの。あなたの名前も聞いていいかな?」
「わ、わたしは……エルルランティア・ヴィルシュエンデっていいます」
幼い外見にそぐわない、すごくかっこいい名前だった。
「じゃあ、エルルって呼んでもいい?」
「エルル……うん、いいよ」
そう言って、少し照れながらも微笑んでくれるエルル。
やばい。笑うとますます可愛い。薄暗い洞窟、周囲には誰もいない……これは、もしかしていけるんじゃないだろうか。
〈犯罪まがいの想像をしているところ悪いですが、ここに来た目的を忘れていませんよね?〉
もちろん忘れてはいない。今のは本題に入る為のクッションだ。コミュ障は話を切り出すタイミングを掴むのがヘタクソなのだ。
「エルル……さっきも言った問題っていうのは、イマノ村の誘拐のことなんだけど」
その言葉を聞いた瞬間、エルルはビクッと身をすくませる。
エルルの反応と状況から察するに、エルルは誘拐に関わっていると見て間違いはないだろう。
私は腰を落として、エルルの青くきれいな瞳をまっすぐに見つめながら語りかける。
「安心して。私はこの問題を解決しに来ただけ。別にエルルの事を傷付けたり、悪いことをしようとなんて思ってないよ。だからお願い。正直に、エルルがしたことを教えてくれないかな?」
〈悪いことはしないとしても、いいことはするんですよね?さっき言っていましたし〉
「しませんよ!………………まだ」
そう、エルルとはまだ出会ったばかり。まずはお互いのことを知らなければならない。
「本当に……?本当にひどいこと、しない……?」
「うん、約束する」
出会ったばかりで信用されるのは難しい事は承知しているが、それでも精一杯の誠意をもって誓う。
「分かった……村の女の子はみんな、だいじょうぶ。元気だよ。洞窟の奥の方にみんないるよ」
それを聞いて、思わず肩の力が抜ける。エルルの様子を見て、誘拐して来た子達がひどい目に合っている事はないと思っていたが、それでも可能性として最悪の事態は想定していた。まずは無事で何より、一安心だ。
「そっか、それはよかった。……あとごめんエルル、当事者として一つはっきりさせておかない事があるんだけど、この誘拐を企てたのと、さっき私に攻撃してきたのは……」
「……うん、わたし。わたしがやったの。……わたしはエルルランティア。毒と呪いを司る、忌み嫌われた出来損ないの龍、だから」
そう言ったエルルの目は、悲嘆と後悔に満ち、涙が溢れそうになっていた。




