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2 童貞と神

「○月×日△時、あなたは同僚の女性、ここではA子さんとしておきましょうか。A子さんを自分の部屋に連れ込もうとしましたね?」

「え、何これ取り調べ?」

「し ま し た ね?」

「……はい。ですがそれは、たまたま自分が持っている漫画をA子さんが読みたいって話になって、おれに持ってきてもらうのも悪いからA子さんが部屋まで取りに来てくれるって話になっただけです」

そうだ、おれはあの日、職場でこんなおれとよく話してくれるA子さんと奇跡的な展開になり、何の手違いかA子さんがおれの部屋に来ることになったのだ。

女性が部屋に来るなんてのは勿論初めての事だったので、入念に掃除もし、普段は絶対に使わないディフューザー(瓶に揚げパスタが突っ込んである見た目のやつ)を買ったりした。

「A子さんが部屋に来る前日、あなたは何をしましたが?」

前言を撤回。これは取り調べではなく裁判のようだ。

「何って……掃除とか、部屋の整理とかしましたけど……」

「本当にそれだけですか?」

「……黙秘します」

「ではここに証拠がありますので提出させて頂きます。これはあなたのパソコンでの閲覧履歴の記録です。日付はあなたがA子さんを連れ込もうとした前日ですね」

……背中に冷たい汗が伝うのを感じる。

「この記録によりますと、主に初めて女性を部屋に招く時に大事な事を調べていたようですね。まあ水回りをきれいにするとかは大事だと思うのですが、家具やインテリアは前日に調べても意味がないのでは?」

「……おっしゃる通りでございます」

ぐうの音も出ないとはこの事だ。インテリアって一つ高い物を買っても浮いてしまって意味がないのよね。結局部屋全体を抜本的に変えないと意味ないと知って諦めた。

「閲覧記録の中で気になったのはあなたが投降したと思われるこの質問です。

 『女性を部屋に招いていい雰囲気になった時のためにコンドームを買っておいた方がいいのか。それとも用意してあると初めからそういうつもりだったと思われるからいい雰囲気になった時に買いに行った方がいいのか、どっちがいいでしょうか?』……質問が長い上に心底どうでもいいですね」

「プライバシー!死者にもプライバシーってものがありますよね!」

何?神様ってのはパソコンの中身まで見えてんの?絶対他にすべきことあるでしょ。覗き見たからにはHDDの中身とか履歴を女神パワーで消去してほしい。

「あなたが死んだ時の話を聞かせてほしいというから話しているんですけど?」

「その辺の前置きはいいですから!どうやって死んだかを簡潔に説明してくださいよ!」

「A子さんを部屋に連れて行く最中に緊張のしすぎで心臓が止まりました、ご愁傷様です」

「馬鹿かよ!」

そんな馬鹿がいるのか……おれの事なんだけど。悲しすぎて泣けてきた。

「いやー私も長いことこの仕事してますけど、こんな死に方した人初めてですよ。これはおそらくこれから長いこと神界で語り継がれますよ。教材に取り上げられるかもしれません」

 やめて……傷口に岩塩でゴリゴリやられてる気分だ……もう葬式にも誰も来ないでほしい……というか開かないで欲しい……このまま静かに眠らせて……

「まあ心臓が止まったのが階段を登っている最中だったのであなたの体は階段を転げ落ちていったんですが、その際のけがは一切なかったようですよ。本当に丈夫な体ですね」

「どれだけボディが頑丈でもエンジンが止まったら何の意味もないんでけどね……はあ」

 自分の死因を聞いて、呆れると共にどこかスッキリした。

「それで、おれはこれからどうなるんですか?三途の川でも渡るんですか?六文銭は持っていませんが」

「いえ、それがですね……実は私の上司の方から通達がありまして……」

上司?神様の世界にも上司とかいるんだな。界王様の上に大界王様がいるみたいなもんだろうか。

「童貞も捨てずに死んでしまったのは不憫だとして、あなたに第二の人生を始める権利を与える、という事です」



……捨てられない童貞あれば拾う神あり、というのは本当だったらしい。



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