17 洞窟と主
「こんな格言を知っていますか?」
〈何ですか唐突に〉
「百合の間に割って入る男は、死ぬ」
〈それ格言じゃないですよね。何故突然そんなことを言い出したんですか?〉
「いや、おそらくなんですが、この先には誘拐された女の子たちがいるわけじゃないですか。そして、誘拐を企てた親玉も一緒にいるはずです」
〈分からないですよ?女の子達は既に別の場所にいる可能性もありますし、ここにいたとしても原型を留めていないかもしれませんよ?〉
「怖っ!!なんて想像してるんですか!とにかく、私が女の子を助けて、そして仲良くなってイチャイチャするんです。邪魔する男がいたとしても勝手に死ぬ。これは世界のルールです」
〈そんなにうまくいきますか?あなたは運動能力に関しては人並み、魔法などの攻撃手段もないんですよ?〉
確かに不安もあるが、まあ大丈夫だろう。相手は呪いで村人が反撃してこないようにしていた。そして、女の子を連れてこいと手下達に命令して自分は洞窟に籠ったままでいる。
「つまり、相手の親玉は前線には立てないタイプの人間だってことですよ。呪いとかでチマチマ相手を追い詰める事しか出来ない姑息な呪術師とかです。どうせ根暗で陰キャ、ひきこもり、童貞とかでゴハッ!」
話に集中して注意散漫になっていたのか、足元の穴に気付かなかった。幸い穴の深さはふくらはぎ程までしかないのだが、問題は穴に水が溜まっていたことだ。おかげで靴の中までびしょびしょになっている。
〈またですか?さっきから何回も同じ穴にはまっていますが、懲りないんですか?〉
「いや、注意はしてるんですけどね……こんな洞窟を明かり一つで歩くとか経験がないもので……洞窟とかダンジョンの内部を探れる能力とかあったら楽なんでしょうけど」
欲しいとは思うが、ない物ねだりをしても仕方がない。人生とは常にない物ねだりの連続だ。いつだって、その時の手持ちのカードで勝負をするしかない。
今の自分のカードは文字通りこの身一つ(超健康)なわけだが。
「……と、どうやら、この先が目的地みたいですよ?」
少し先に開けた空間があり、そこは今までの通路より少し明るいのか、自分のいる方に薄く光が差し込んできている。陽光石の淡いオレンジ色とは違い、先の空間は青白い光に満ちているようだ。
〈いよいよですね。ここまでの道で侵入者を撃退する仕掛けがなかったということは、この先に余程手の込んだ即死級の罠があるのかもしれません。誘拐された女の子達がここにいるかも不明です。水溜まりに何度も突っ込んだせいで両足ともビショビショですが、武運を祈ります。せいぜい頑張ってください〉
「いや応援下手すぎません!?」
カミ子さんのありがたーい励ましを受け、洞窟の奥の空間へと到達した。
「おお……」
そこは、広さにしておよそバスケッとコート二面分ほどの開けたドーム状の空間だった。天井には青白く光る鉱石のようなものが無数に見え、それがドーム全体を照らしている。まるで洞窟に突然に星空が現れたかのようだ。
〈ロマンチックな事を考えている場合ですか。ここは敵地ですよ〉
っとそうだった。見慣れない光景に遭遇すると、つい見惚れてしまう。
目線を水平に戻し、周囲を観察する。ドーム内には大きな岩が点在している以外は特に目立つ物はなく、人影や動く姿も見られない。
「……誰も、いな―」
『何者だ』
「っ!」
突然洞窟内に声が響き渡り、一気に警戒感が高まる。
それは、まるで何人もの人が同時に話しているような声だった。おまけに、洞窟内に反響するせいで声の主がどこにいるか分からない。
「私は、旅の魔法使いアイシャ!イマノ村の人達はここにいるの!?いるのならさっさと村に帰してあげなさい!」
『魔法使いだと?その割には、何の力も感じられぬが……』
〈ほら、言われてますよ。やっぱり、分かる人には分かるんですよ〉
これからだから!まだまだこれからの成長に期待だから!
『だが、ここまでの罠を突破してきたということは、ただの人間というわけでもなさそうだ……イマノ村の娘達が目当てだといったな。ここにいる、と言ったらどうする?』
「当然、連れて帰るよ!大人しく引き渡すのならそれでよし、抵抗するのなら―」
『どうする気だ?』
突然、声に込められた威圧感が増大した気がした。ドーム全体の空気がビリビリとした緊張感を帯びる。
『我を相手に、人間がどうしようというのだ?我が村に送った手下共を追い払ったようだが、まさか我までどうにか出来ると思っているのではないだろうな?』
……何だろう、思っていた展開と違う。今この空間を満たしている迫力は、間違っても陰キャ呪術師のそれではない。しかも、さっきからこっちのことをやけに『ただの人間』と呼んできている。まるで、自分はそうではないような―
『大人しく帰るのなら今の内だぞ……我に、この毒と呪いの龍の逆鱗に触れぬうちにな!』
……え、龍?今、龍って言いました?
〈言いましたね。龍。ドラゴン。あなたの世界では幻想の中の生き物ですが、この世界ではれっきとした存在する生物です。間違ってもこの世界に来たばかりの戦う力もないあなたが倒せる存在ではありませんが、せいぜい頑張ってください〉
「だ、か、ら、応援下手過ぎません!?」




