15 お茶と決意
村長さんの家に案内されて、お茶を一杯頂く。
ずずーっ……いやあ、やっぱりお茶は落ち着く。前世ではたまにペットボトル入りの物を買うくらいだったが、こうして丁寧に淹れられたものは美味しい。あいにく自分の舌では茶葉が高級かどうかなんて分からないが、美味ければそれでよしだ。味は元の世界のほうじ茶に近く、親しみが感じられる。
よく考えたらこの世界に来て初めて人の手で加工された物を口にしたわけだが、食に関しての第一印象は良好だ。時間があったら他にどんな食べ物があるのか調べてみたい。
「それで、あの連中はひと月ほど前からよく来ていて、村の若い女の子を連れて行ってしまっている、ということですね?」
「はい、幸いなことに金品や食糧を奪われることもなく、この首輪を着けられた以外は特に乱暴されるようなこともありません。……あの連中にが言うには攫われた全員が無事だという事なんですが、村の全員、気が気でない状態が続いている状態です……」
それはそうだ。家族が攫われて、平静でいられる人がいるわけがない。一刻も早く会って、無事を確かめたいはずだ。
しかし、この誘拐は何が目的なのだろう。この村に来た際に金品を奪わないという事は、身代金目的というわけではないという事は想像出来る。
となると考えられる可能性は、人身売買とかだろうか。この世界の治安や法律についてはまだ分からないが、あり得ない話ではないだろう。
あとは……山賊の頭が女の子を侍らせるために誘拐を命令してる、とか?
<でも、下は10歳にもならない子まで連れ去られていると言っていましたよ?年頃の女性ならまだしも、そんな子供まで連れて行きますか、普通?>
「いや、世の中には様々な趣味嗜好性癖があるものですよカミ子さん。小さい子が好きって人もいるんです」
<………………ふーん>
何だろう、カミ子さんが冷たい視線で見ている気がする。いや、あくまでも一般的な話ですよ?それに今の自分の見た目はただの美少女だ。小さい子と遊んでいても何の問題もないはずだ。通報の心配もない。
<通報はしなくても、軽蔑はしますね>
やめてほしい。
それはそうと、一つ気になっていたことがある。
「ちょっと失礼しますね」
そう言って、村長さんの首輪に触れてみる。が、反応はない。試しに軽く引っ張ってみたが同じで、さっき自分の首輪が外れた時のようにはいかなかった。
やはり、自分の持つ天給は自分にしか作用しないようだ。キャンセラー!とか能力無効化!みたいなかっこいいものではないらしい。
「すみません、どうやら他の人の呪いを解除することは出来ないみたいです」
「そうですか……ですが、あなたの様に呪いに対抗できる人がいると知れただけでもよかったです」
そう言って村長さんは笑った。いや、笑おうとしてはいるが、その笑顔はぎこちないものだった。他人の感情の機微に疎い自分にも、その内に秘める悲愴さは見てとれた。
「あの―」
そう言いかけた言葉を、ノックの音が遮った。誰かが訪ねてきようだ。
目で伺ってきた村長さんに、「どうぞ」と促す。村長さんが開けたドアの向こうにいたのは、村に住んでいると思われる青年。人数は10人程はいるだろうか。手には農具や木の棒など、精いっぱいの武装を携えており、その顔には何かの決意が見られる。
「あー、あれは多分、あれだろうな……」
<何ですか、あれって>
「いや、おそらくですけどね……」
自分の予想通り、青年集団から聞こえてくるのは「もう我慢ならない」「一矢報いてやる」「この身を犠牲にしても家族を取り戻す」というものだった。村長さんはそれを宥めようとしている。
村長さんとしても、村人が連れ去られたままでいいと思っているはずがない。ただ、青年達をこのまま行かせて無事で済む保証はないし、失敗した際には村に更なる損害が出る可能性がある。
仕方がない。こういうのは勢いだ。異世界に転生して美少女受肉(略して異美肉)した事でハイになっている自覚もある。何より、ここで立たなきゃ女が廃る!……ような気がする。
「待ってください、皆さん!」
今にも村を出て行きそうな青年達に、声をかける。
「あんたは、さっきの……」
「話は聞かせてもらいました。この村で起きている事も。……ここは、私に任せてもらえませんか?あなた達には、呪いが掛けられているんですよね?それに、相手は誘拐した子達を盾に何をしてくるか分かりません。ここは、呪いの効かないこの旅の魔法使いに行かせてください」
まだ戸惑いの見える青年達に続けて呼びかける。
「私の名前はアイシャ・アインス。この世界のすべての女の子とイチャイ……じゃない、友達になる女です!」
<…………台無しですよ、全部>
ですよねー。自分でもそう思いました。




