12 起床と出会い
この世界に来て二度目の目覚めは、それはもう爽やかなものだった。小鳥のさえずり、風に揺れる木の葉の音、枝の間からの柔らかい木漏れ日。もしかしたら、生まれて一番の目覚めの良さかもしれない。体感では、おそらく8時間以上は寝ていたはずだ。
「ふわぁ~あ、よく寝た……」
<おや、お目覚めですか>
「ああカミ子さん、おはようございます。気持ちのいい朝ですね。昨日の夜、急にすごい眠気が来たときはどうしようかと思い……ました、が……」
意識がはっきりしていくと共に、昨夜のことも思い出す。
尾行していた男達。
町に迫る危機。
「やっべええええええええ!!!!!」
そう叫ぶが先か、寝起きの体を起こして走り出す。幸いにもこの体は寝起きの全力ダッシュにも付いて来てくれた。
まずは、昨日男達が集まっていた場所へと向かう。が、そこには誰もおらず、たき火の跡から男達がここを去ってから時間が経っていることが分かった。
「もーなんで起こしてくれなかったのカミ子さん!」
<私はあなたの母親ですか!?>
とりあえず町がある方向に向かって全力でダッシュする。別に自分はあの男達にもこの先にある村にも全く無関係なのだが、このままでは目覚めが悪い。明日もスッキリ目覚めるために、森の中の道を駆け抜けた。
森を抜けると、すぐに町が見えた。大きくはないが綺麗な村で、建物の素材は木、または石、たまにレンガ造りの建物もある。行ったことはないが、写真で見たフランスの街並みに似ている気がする。
まずは現地調査を兼ねた観光をしたいところだが、今はそれどころではない。あの男達はもうこの町に着いているのだろうか。とりあえず入って探すしかないだろう。
村の主な通りは石畳で整備されており、そこかしこに住人の姿も見えた。見た目は至って普通の人間といった様子で、ひとまず安心する。しかし、それと同時にいくつか違和感を覚えた。
「なんか……みんな元気なくないですか?」
<確かに、大半の人が消沈しているというか、悲しそうですね>
もしかして、既にあの男達に何かされた後なのだろうか。
「とにかく、誰かに話を聞いてみます」
<え、あなたが?見ず知らずの人と?話を?出来るんですか?>
なにかすごく馬鹿にされている気がする。まあ言いたいことは分かる。陰キャコミュ障をこじらせまくった自分にそんなことが出来るのか、という事だろう。
しかし心配は要らない。今の自分は文字通り生まれ変わったのだ。しかも外見は美少女に。今までの自分とは違うという事を見せてあげよう。
タイミングよく、通りかかった家の前に俯きがちに座り込んでいるおばあちゃんがいた。
大丈夫、出来るはず。大事なのは笑顔だ。親しみを込めて―
「ぁ、あにょっ、すすしゅみましぇん!」
ひどい噛みようだった。
<転生しても何も変わってないじゃないですか。5年間何をしてたんですか>
「仕方がないじゃないですか!異世界での初めての会話ですよ!」
ちなみに、カミ子さんとの会話は頭の中でやりとりされるため会話にはカウントされない。
「はい、どうしました?」
幸いなことにおばあちゃんは顔を上げて普通に対応してくれた。というか、異世界でも普通に言語での意思疎通が出来ている。よかった。
「おやまあ、可愛いお嬢さんだこと」
「で す よ ね!!」
「はい?」
「いえ、何でもありません」
いかんいかん、つい嬉しくてクソデカボイスになってしまった。異世界でもこの可愛さは通じるんだ……よかった……おれの5年間は無駄じゃなかったんだ。
喜びの涙を密かに流していると、おばあちゃんは声を潜めて、
「あなたみたいな可愛いお嬢さんがこんな所にいちゃいけないよ、早くここから出て行った方がいいよ」
「それってどういう……」
<陰キャコミュ障は村から出てけってことじゃないですか?一応礼儀として優しく言ってくれてますが>
いやいや、だとしたら立ち直れないよ自分。まさかの入町拒否ですか。
「最近この村には、よくない連中が度々来ていてね。誰かの命令で若い娘をさらって行ってるんだ。年頃の娘から、下はまだ10歳にもならない子まで、見境なく……」
そう、この村に入ってから覚えたもう一つの違和感がそれだ。若い女性がいないのだ。
「最初は私達も抵抗したんだけどね。あの連中は武器も持っているし、一度さらわれてからは、その子達がどうなってもいいのかと脅されてまたさらわれて……おまけに村の全員が呪いの首輪を付けられて逆らえず、今となってはもうこの村に若い娘はいなくなってしまったよ」
武器を持った連中……昨日の男達の会話を思い出し、思わず拳を握りしめていた。
この世界にどんなルールがあるかは知らない。どんな超常的な力があるかも分からない。ただ、こうして事件が起きて、悲しんでいる人がいる。
何より、この世界に来てまだ一人も女の子と会っていない。人がいる場所に行けば友達になる機会もあるかと思っていたのに、そのチャンスを奪われたことが、何より許せない。
その時、近くで悲鳴が聞こえた。続いて、柄の悪そうな男の声も。
「ああ、また連中が来たんだ。お嬢さん、早く逃げないと」
それを聞いて、歩き出す。向かうのは村の出口ではなく、悲鳴の聞こえてきた方角だ。
「ちょっと……聞いてたのかい!?」
「大丈夫だよおばあちゃん、ちょっと待ってて。すぐに片づけてくるから。……それに、この事件が終わったら、私、友達作るんだ。だから、ちゃんと帰ってくる。私も、連れ去られたみんなも!」
ニッ、と笑顔を浮かべて、その場を後にする。
<……さっきのあれは、新手の死亡フラグですか?>
言わないで欲しい、自分でも言った後にそれっぽいなと思ったのだから。




