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1 死と女神

 29年と11か月20日。

 何の数字か分かるだろうか。簡単に言うと、おれの人生の長さだ。

 人間五十年と言われていた戦国時代に比べても短い。

普通に中学、高校を卒業してその後就職。それなりに仕事はしながら生きてきた。

 根っからの陰キャコミュ障ぼっちだったため、彼女はおろか友達と呼べる知り合いも大しておらず、基本的に人生をソロプレイで楽しんでいた。いや、もしかしたら楽しめていると思い込んでいただけかもしれない。

 友達や恋人と楽しそうな時間を過ごしている人を見て、羨ましいという気持ちがなかったと言ったら嘘になる。ただ、誰もいない部屋で好き勝手にあんなことやこんなことが出来るんだぞと心の中で意味もない自慢をして誤魔化してきた。

 ただ、男の人生は太く短く誇り高くあるべきだ。短い人生ではあったが、お天道様に恥じない行動を取ってきたという自信はあるし、大病はおろか風邪も引いた記憶がない程に健康で元気だった。

 そんな俺がどうして死んだかというのはあまり覚えていないが、おそらくあれだ。目の前で交通事故か殺傷事件が起きそうな所を身を挺して防いで名誉の死を遂げた、とかそんなところだろう。どれだけ健康な体だったとしてもさすがに刃物や自動車には敵わない。

「―――し?」

 まあ毎日ただ仕事をして帰って寝るだけを繰り返しているだけいるだけの自分が誰かを助けられたのなら悪くはない。叶うことなら自分の葬式で助けた人(可愛い女子高生とかがいい)がお焼香でも上げに来て、一筋の涙を流してくれれば言うことはない。

「――もし?」

 ああ、でも地元にはいた数少ない友達、それと両親は悲しむだろうな。一人息子が結婚もせずに死んでしまったのだから。

 でも大丈夫。保険証の臓器提供の意思表示は全て○を付けてある。今まで病気一つせずに生きてこられたのはきっとこの為だったんだな。ありがとう、父さん、母さん……おれが死んでも、きっと誰かのためになるよ……

 「もしもーーーーーし!!!!!!」

 耳元でつんざくような声がしたかと思うと、全身を稲妻に打たれたかのような衝撃が走った。といっても恋の予感とかそんなんじゃなく、完全なる物理ダメージとしてだが。

 ダメージから回復するとともに、現状を思い出す。自分が着ている服は生前の最期に着ていた服だ。ファッションに疎く、ほぼ全ての服を量販店で買い揃えている自分の中でも少しだけお気に入りの一着。そのまま自分の両手の足に視線を移すと、なんとまあ、少し発光している。と言っても電球のように輝いているわけではなく、よくマンガとかで見る幽霊のように暗闇にうすぼんやりと浮かび上がる程度のものだ。これだけでも超常現象だが、極めつけはさっきおれの耳元で叫んだ存在だ。

 おれの横には、『ザ、女神!』と言わんばかりの存在がいる。

 腰まで届くほどの長さでありながら、重力を感じさせないふわふわサラッサラで綺麗な金髪。

 目、鼻、口、全てが作り物かと思うほどに整っていながら、可愛さも感じられる表情。

 スタイルは抜群で、マンガかおれの妄想でしかお目にかかれない胸、腰、尻をしている。

 服装はなんかもう布を巻きつけただけのようななんかもうすごい感じ。

 極めつけはその存在は地面から浮いている。というか浮いているのはおれも同じなんだが。周囲から浮いている自覚はあったおれだが、ついに物理的にも浮いちゃったかーそうかー。

 「妄想から帰ってきましたか?」

 「あーまあそうですね、保険証に○付けておいてよかったです」

 「何の話ですか……」

 ジト目で見つめられたので少々ビビる。死んでいようがコミュ障っぷりは変わらない。ましてこんな美人なら尚更だが、思ったほど普通に話せているのは周りの状況とかがぶっとんでてそれどころではないからだろうか。

 ちなみに目の前にいる存在は女神らしい。まあ見た目からそうかと予想はしていたが。

 名前も名乗られたがすごく長かったので覚えるのを諦めた。暫定的にカミ子さんとしておく。

 「それで、状況は理解していただけましたか?」

 「ええ、おれが死んだってことですよね。まあ残念ではありますが、大義のための犠牲となったならそれもしょうがないかなって」

 「………は?」

 「はい?」

 いまの「は?」は知っている。中学の時に同じクラスの佐々木さんに冗談を言ったら氷のような視線と共に発せられたのと同じものだった。つまり『何言ってんだこいつ黙れ』っていう。

 「ご自分が亡くなった状況を覚えていないのですか?」

 「まあ、そうですね。あまり覚えていたいものでもないでしょう」

 「そうですよね……まあ、ひどいものでしたから……」

 そう言って少し目を伏せるカミ子さん。おそらくこの人(人じゃないけど)は死んでしまった人を迎え入れて、死んだ時の状況とかを伝えるのが仕事なんだろう。どんなに辛いことでも、きちんと伝えてきたのだろう。

 ――だとしたら、それを聞くのはおれの義務だ。

 「教えてください」

 「はい?」

 「おれが死んだ時の事、聞かせてくれませんか」

 カミ子さんは少し考えてから

 「後悔……しませんか?」

 「もう死んでるんですから、後悔も何もないですよ」

 「分かりました。ではお話します。

 「30歳まであと10日と迫ったあの日、あなたは何とかして童貞を捨てたいと思い同僚の女性を部屋に連れ込みましたね?」

 「あああああああああ!!!!!!!」


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