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自分の正体1

 生まれてすぐに生みの親に捨てられた

 どんな親だったのかは知らないけれどとにかく私は雨の中街の大通りに、何に包まれることもなく裸で捨てられていたんだ

 それからは少しの間幸せな時間があった

 拾ってくれた夫婦には子供ができず、私を本当の子供のように可愛がってくれていた

 絶対に可愛いとは言えないわたしの容姿は、手足が普通の人の三分の一しかなく、顔も丸く腫れていて、目はその腫れでほとんど見えていなかった

 原因は不明で別に移るような病気じゃないことは分かったけど、そのせいか私は周囲の子供達の恰好の獲物となっていた

 いじめは激しく、時折なんの意味もなく殴られ転がされることが多かった

 その時はいつもお父さんが助けてくれていたけど、今はもうそのお父さんも、私をいつも可愛いと言ってくれたお母さんもいない

 夫婦は私が五歳の誕生日を迎えたその日に、貴族の乗った馬車に轢かれて死んでしまった

 たかだか平民が轢かれたくらいで貴族が罰せられることはない

 私は再び孤児となった

 その醜い容姿から孤児院に入れてもらうこともできず、私はゴミ箱を明後日毎日の飢えをしのいでいたのだけれど、両親が死んでから一か月後に奴隷商人に掴まって二束三文で売られた

 その時奴隷商人が私の能力と言うものを見て悪意たっぷりの笑顔をむけたのが今でも夢に出て来る

 私には治癒魔法の才能があったようで、しかもそれは通常では治せないような病も傷も癒すという世界でも珍しいものだったらしい

 奴隷商人は嬉々として私をオークションにかけ、そして私はある貴族に買われた

 それは忘れもしない、私の両親を轢き殺し、あまつさえその亡骸に唾を吐きかけた太った貴族だった

「は、これで女とは、なんと醜い。治癒魔法の才能が無ければ息子の魔法の練習台くらいにしかならんではないか」

 そいつは私のことをどうやら覚えていないらしい

 それもそのはずか・・・。私達のような平民なんて貴族にとっては路傍の石そのものだもの

 でももしかしたらこれは両親の敵を取るチャンスなのかもしれない

 そう思って私はその機会を虎視眈々と狙った

 でもそれは叶わない相談だった

 まず奴隷の証である隷属の首輪と言うものをはめられた

 これは主人の意図に逆らう奴隷に激しい痛みを与え、時には死に至らしめるという代物だった

 その時まだ幼かった私はそれを聞いて震えた

 せっかく両親がここまで育ててくれたのに、それで死ぬことなんてできない

 それにこの男を殺すまでは死ねない


 その日から私は酷い生活を送った

 与えられる食物はわずかで、しかも腐ったものや残飯ばかり

 時には一日中飲まず食わずという日もざらにあった

 私の役目は多額のお金で人を癒すというもので、毎日毎日魔力が完全に回復する暇もなく治療を続けさせられた

 もちろんそのお金は一切私に入ることはない

 魔力が切れかけていて治療できないというと激しく殴られ、私の腫れた顔はさらに大きく腫れあがった

 その頃から顔が醜すぎるという理由で重たく冷たい鉄仮面を浸けさせられた

 そのせいか傷口が化膿して爛れ、右目は完全に見えなくなってしまった

 それでも自分自身を治療することはできず、しようとすればその分金をとれるやつを治療しろとまた殴られた

 その結果、私は八歳を迎える前に不治の病にかかってしまった

 その病は移ることはないけど私の治癒魔法でも治すことはできないもの

 病気のせいでまともに治療もできなくなった私は、両親を殺した貴族の男の息子に玩具として渡され、ゆっくりと苦しむように体中を切り刻まれ、手足を先からスライスされ、芋虫のようになったところで捨てられることになった

 捨てられる。それは私にとって最後の救いだった

 もう苦しむことはないし、先に逝ってしまった両親に会えるのだから

 奴隷の死体が摘まれている死体置き場、その一番上に転がされ、血をゴホゴホと吐き出しながらゆっくりと意識が消えていくのを感じる

 ああ、もうすぐ楽に、なれるんだ

 お父さん、お母さん、やっと会える。もうすぐ・・・、私・・・

「おお、なんと、アアアアアなんということでしょう」

 自分の命の灯がゆっくりと消えていく中女性の声が聞こえてきた

「ああ、あの子の娘が、このような・・・。なんと愚かなり人間」

 私の体をその女性が抱え上げるのを感じた

 ズタズタに斬られたからだが、ボロボロに折れた骨が、軋んで痛む

 まだ痛みを感じる。神様はまだ私に生きろというの?

「さあ行きましょう。あなたのいるべき場所はここではないわ」

 優しい暖かさを感じる。この女性は一体誰なんだろう?

 それよりも今は、凄く眠い

 女性のことが気になりつつも私は意識を失った


 なんだか体がむず痒い

 私は痒む体をかこうと手を伸ばした

 手を、伸ばす? 私の手は切り刻まれてもうないはずなのに、なんで背中を掛けているんだろう?

 それに足の感覚も戻っている

 恐る恐る目を開くと、視力を失ったはずの右目が見えるようになっていて、腫れていたはずの瞼が大きく開くのを感じた

 そこで見たのはキラキラと輝くような花々が咲き乱れる花畑で、私はその中心辺りにあるベッドの上で寝かされていた

 ゆっくりと体を起こすと、蝶のような何かがヒラヒラと舞っている

 幻想的な風景に思わず見とれていると、蝶の一匹が私の前にひらりと舞い降りてきた

 蝶と思っていたのは蝶の羽を持った女性人型の小さな何か

「お目覚めですねお嬢様」

 自分が呼ばれていると気づかずに黙っていると、その小さな女性は私の指を握った

「お嬢様、お着換えしましょう。そのお召し物は汚れています」

「お嬢様って、私のこと?」

「ええもちろんですお嬢様、あなた様は大妖精イスナ様と大精霊ハルウェン様の娘様です。ですから私達にとってお嬢様はお嬢様なのです」

 その女性、どうやら妖精らしくて、名前をマリィリっていうみたい

 マリィリは私を引っ張って水辺に連れて来てくれた

「まずは体の汚れを落としましょう。せっかく幼体から成体になられたのですから、美しい羽が汚れたままでは悲しいです」

 美しい羽・・・?

 私は泉の水で自分の姿を見てみた

 そこには見たこともないほどの美しい少女の姿が映っていて、その背中からは大きく淡く光る蝶のような羽が見えた

「なに、これ・・・。私、どうなって」

「お嬢様は大妖精の血が入っています。通常妖精は五年ほどで生態になるのですが、精霊の血も入っているため八年もかかってしまったのでしょう。それにしてもお嬢様は本当に美しいです」

 奴隷の頃のボロボロの服と自分の動きに合わせて動く泉に映った少女の姿から、その少女がようやく自分だと認識ができた

「妖精は五年間幼体という状態がありまして、その間は醜い姿なのですが、成長すると私達のような妖精へと羽化するのです」

 まだほとんど理解はできていないけれど、私は人間じゃなかったみたい

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