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その一

「柚ちゃん。これから夏美と会うからさ。半殺しにするの、付き合ってくれるよね?」


 物騒な言葉と同時に首にグイっと腕をまかれて、ひぃっと叫びそうになった私は悪くないと思う。

 私は通りすがりの同級生Aなので、他人の事情に巻き込まれたくありません。

 靴は履いているし、ここは逃亡一択しかない。

「はいこれ、招待状」

 

 なんて言いながら淡い紫色の和紙を、佐々木君は制服のポケットにねじ込んできた。

 チラリと見えた文字の一部は、有明月 夜船 という端正な文字。

 何の暗号なのかも教えてくれないのに、相変わらず私の扱いがひどい。


「半殺しの手伝いはいやー! はーなーしーてー!」


 それに「いくら許せないことがあったからって半殺しはダメでしょ!」なんて焦る私に、見惚れるくらい綺麗な顔をした佐々木君はヘラリと笑った。


「柚ちゃんなら、俺のこと春斗って呼んでいーよ」


 相変わらずのナンパ野郎みたいなセリフに、私はギュッと顔をしかめる。

 他の子には「春」とか「春くん」と呼ばれてるのは知っているけど、呼び捨てなんて特別はお呼びでないのだ。

 それにあれだ。「春」や「春くん」が乱舞する中では「佐々木君」って特別な呼び方になっていると思うしね。


 とりあえず逃げよう。

 ふんす! と力を込めてグネグネ身体を揺らしたけれど、首にがっちりまかれた腕はまったくもって緩まなかった。

 それに私の身長が低すぎて、変に動くと本格的に首が閉まりそうだ。


 いいね~その反応! などとつぶやきながら腕の位置をちょっと変えると、開いている左手で私のほっぺをツンツンしてくるから非常にむかついてしまう。


 最高に不細工な表情になっているはずなのに、かわいー! なんてツンツンの速度を加速させるのはやめてほしい。

 ごめんね、全身ふわふわのぽっちゃり女子で!


「じゃぁ、こうしよう。俺の名前を呼び捨てにしてくれたら腕を緩めるから、このまま手をつなぐか、がっつり肩を抱いたまま行くか選んでいーよ」


 それ、譲歩しているようで、ちっとも譲歩していないと思うのだよ。

 夏美ちゃんの半殺し予定の場所への強制連行は、不動だよね?

 ニコニコと表情は笑っているのに、佐々木君の目が笑っていないから非常に怖い。


 悪魔かよ。うん、悪魔だ。悪魔でいいと思う。

 人当たりの良い美形男子は悪魔で間違いない。


「ムリムリ、もうなんかいろいろムリ―! 一人でおうちに帰るー!」


 嫌がれば嫌がるほど拘束が強まる悪循環にはまってしまうのはなぜだ。

 ここは学校の玄関で、放課後の下校時間という人通りの多い場所なのに、誰一人として足を止めず、微笑ましそうに目を細めて通り過ぎていく。

 女の子と仲良くイチャイチャとくっついているのが常態の佐々木マジックが憎い。

 そもそも佐々木君の横に私ってのはヴィジュアル的にもおかしいでしょー?! と思うけれど、なぜ誰も不思議に思わないのか。

 解せぬ。


「これから俺とデートしようね。柚ちゃんの人生初めてのデートだから、一生記憶に残るといいな~」


 ご機嫌が良いらしく、ふんふん♪ と佐々木君は鼻歌交じりである。

 デート? これから向かう、半殺しがデートになるの? と私はちょっと怯えてしまった。


 うん、私の人生初ってところは間違っていないけれど。

 佐々木君のチャラ発言を真に受けてはいけない気がする。

 おはようのあいさつと一緒で、熱烈な甘い言葉もただの定型文のはず。

 

 そう、本気にしてはいけないのだ……真に受けるだけ疲れるのに、密着してる体温と合わさって心臓がドキドキして止まらないから悔しい。

 背後からの首締めって、抱きしめられてるのと変わらないって気づいてしまったらもうだめだ。

 不本意にもときめきが訪れて、心臓が爆発したらどうしてくれるのって勢いで自己主張している。


 しかし、どんなにときめいても忘れてはいけない。

 今から向かう先で待っているのは、半殺し現場だ……ぴえん。

 人生初のデートが半殺しの誘いとは、これ如何に。


 佐々木君は肩をグイっと抱き込んで、ずるずると嫌がっている私を引きずって歩き出した。

 身長はちょっと足りないけどスラッとしたモデル体型のくせに、信じられないバカ力なんですけど!

 私の全力拒否は、貴方の片手お遊戯ですか。


「もうやだ、はーなーしーてー!」


 こうして私は、半殺しするために引きずられながら連行されるのだった。

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