アイドル候補を見つけたようです。
「ん……ここは?」
気がつくと、俺は知らない部屋のベッドに寝かされていた。
何か長い夢を見ていた気がする。
「あぁ、さっきまでのは夢か……」
そりゃそうか。あんなことが現実に起こるわけが──
「…………(ジー)」
「…………」
なんか、すごい視線を感じる。
ゆっくり右側を見ると、こっちを真っ直ぐに見つめる2つのエメラルドがあった。しかし、それは人だったらしい。
しかも、はっきり言ってめちゃくちゃ美人だ。整った小さい顔に金髪、それに輝くエメラルドかと思うほどの瞳に頭の上のネコミミ。
彼女は無表情でこちらを見つめたまま微動打にしない。
昨日のあれは、やっぱり夢じゃなかったのか。
「………………あの、1ついいですかね」
「何?」
会話はできるらしい。
「………………色々と聞きたいことはあるんだけども、君は誰で、ここはどこですかね」
「レオナはレオナで、ここは『ガリオン』だよ?」
うん、彼女がレオナという名前だということ以外はよく分からん。
「……あ! 目を覚ましたんですね!」
と、誰かが部屋に入ってきた。
これまた美人だ。でも、このレオナさんとは別ベクトルで、この人はショートカットの童顔で、レオナより幼い感じの可愛らしさがある。
「良かったぁ、外傷はないのに昨日から目を覚まさないから心配で……」
「……えっと」
「あ、ごめんなさい。私はクルルと言います。こっちはレオナで、ここは私達が暮らしている下宿屋『ガリオン』の一室なんです」
このクルルという人はレオナさんと違い、普通の人みたいだ。会話になる。
「クルルさんか。ごめんな、なんかお邪魔してしまったみたいで」
「いやいや! 滅相もないです! それどころか危ないところを助けて頂いて、なんてお礼をすればいいか……」
「……ん?」
助けた? 俺が?
おかしい、あの恐竜みたいなやつに追いかけられていた記憶はあるんだが、途中から記憶がすっぽり抜けている。
「あの『ガレックス』はここいらじゃ『ランクB+』の魔物に指定されてまして、普通の冒険者じゃ手も足も出ない怪物ですから……それをあっさり倒してしまって。あ、私達で出来る限り素材も回収しておきましたので、御安心ください」
どうやら、あの怪物は『ガレックス』と言って、それを俺が倒したと勘違いしているらしい。さて、どうしたものか。
「あのさ、その件は多分誤解で……」
そう弁明しようとしたその時。
──ガチャ。
「あらぁー、やっと起きたのね坊や」
さらなる怪物が現れた。
「ギャアアアアアアア!!!!! 出たああああああああぁぁぁ!!!」
メイド服姿の角刈りゴリゴリマッチョ。その顔の拙い化粧が更に恐怖を掻き立てる。俺は咄嗟に飛び起きてベッドを盾にした。
「あらなーに? 随分と恥ずかしがり屋なのね。可愛らしいわ♪」
「ヒィィィ!!!?」
しかもそれでオカマ口調で投げキッス。死ねる、これは新手の拷問か!?
「……この人、怯えてるだけなの。少し離れた方がいいよ」
「あら、そうなの? まぁあの『ガレックス』に襲われたんだし、仕方ないわね」
正直、あの怪物より貴方の方が数倍怖い、なんて言えない。
「何はともあれ、私の可愛い娘たちを助けてくれたらしいじゃない。私はサチコ。ここ『ガリオン』の店主よ。娘たちの恩人は手厚く歓迎させてもらうわ」
サチコ!? この外見で!? なんのギャグだ!?
「お礼をしたいとこだけど、詳しい話は後にさせて頂戴。ここはこれから稼ぎ時でね。すごく忙しいのよ。話はその後で良いかしら?」
「え? あ、はい」
「そうだ、貴方もご飯はまだでしょ? ついでに下に来て見るといいわ。奢ってあげるから」
「あの、見るって何を?」
「そんなの決まってるじゃない」
「『ガリオン』名物、彼女達の舞よ」
✩
「……すげぇ」
俺が寝ていたのは下宿屋『ガリオン』の2階で、1階に降りると広い木造のホールがあった。そこには何十人もの人がテーブルを囲んで、ワイワイどんちゃん騒ぎ。
「はい、お客様はこちらにどうぞ」
「は、はい」
店員さんに言われるままに誘導された席に座り、そこで周りを見渡す。
「よう、兄ちゃん! あんた初顔だな!? どっから来たんだ!?」
と、いきなり隣の渋い顔のおじさんから声をかけられた。どうやら酔っ払っているらしい。
「あ、えっと…………」
「あぁ、いいっていいって! 言いたくないなら言わなくても! そういうやつもいるわな! しかし兄ちゃんの格好が珍妙でな! 気になっちまったんだ!」
「格好?」
言われて、俺はやっと自分の服装に気がついた。
「な、なんだこりゃ!?」
黒いスーツに革靴、おまけに紺のネクタイ。この場には完全に浮いている。
『だって、君は《プロデューサー》だからね。正装はそれしかないだろ、と神様が言ってたよ?』
『だからってこれはおかしいでしょこの世界には!』
頭の中で解説してくれた朱音に思わず頭の中でつっこむ。こんな見るからにドラ〇エのRPGみたいな世界観でこれは完全におかしいことくらいわかる。
「まぁ楽しんでいけや。ほれ、始まるぞ」
「始まる?」
と、そこにいた全員が1点を見つめていることに気付く。
ホールの奥にあるデカい舞台。その上には何やら光る玉が置かれていて、その光が強くなった。
そして、その壇上に上がってきたのは、
「……レオナさんと、クルルさん?」
さっき上で会った2人。でも2人とも雰囲気がまるで違う。
綺麗なドレスを着飾り、薄い化粧。レオナさんの金髪に照明が当たり、まるで天の川のように流れて煌めいている。
クルルさんは後ろの玉に触り、何かを念じたかと思うとすぐに前の方にでてきた。
さっきまでの騒がしさが嘘のように静まり返り、皆が何かを待っている。
「……!」
やがて玉が煌めきを増し、何かが流れ始めた。これは……曲だ。
ピアノのような旋律。でもどこか違う。そしてその音楽に合わせて壇上の2人は舞い踊る。
それは星のようにキラキラと、それは静かな海のように淡々と、それは炎のように時に激しく、時に川のように流れていく。
さっきの2人とは思えないくらい、まるで別人に見えた。
「……すげぇだろ、兄ちゃんは運がいいぜ。今日はこの『ガリオン』でもトップを張る2人がセットなんてな」
さっきのおじさんが静かに教えてくれたが、そんなのはもうどうでもよかった。俺は完全に、目を奪われていたんだ。その2人に、その輝きに。
「……見つけた、見つけたぞ!」
紛れもなく、それは、『原石』だった。






