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【漫画単行本4巻発売中】神獣郷オンライン!〜『器用値極振り』で聖獣と共に『不殺』で優しい魅せプレイを『配信』します!〜  作者: 時雨オオカミ
『憂鬱の消えた街』

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太陽の使者


「行っきますよー!」

「あの、本当に」


 オボロが大ジャンプをする。

 私の前に乗せたホオズキさんの三つ編みがふわっと浮いて……いや、もはや暴れるように風に煽られる。なにか言いかけた口は振動に対する悲鳴になって喉の奥に消えていった。

 真下にはヒュプノスとレーティア。こちらを見上げて攻撃スキルを放とうとするが、アカツキやシズクの攻撃で相殺されている。

 私を標的にしているものの、前にホオズキさんが乗っているために少しのラグ……躊躇いが生まれたからというのもあるかもしれない。彼らは実に無防備な状態だった。


「せえい!」

「嘘ですよね!?」


 オボロの首にしがみついている彼をベリッと剥がして放り投げる。いつも見ていた冷静そのものの表情は今や泣きそうに恐怖で歪んでいた。まるではじめてジェットコースターに乗った子供のように。


「ああああああ!!」

「いけ! いけー! 抱け〜!! 抱きつくんですよ!!」


 そして彼は情けない悲鳴をあげながら落下していった。正直ヒュプノスやレーティアが受け止めてくれないと大怪我では? レベルの暴挙だが、魔獣になった程度で彼らがホオズキさんを見捨てるわけがない。そんな確信を持っているうえでの理性ある暴挙だった。


『無慈悲すぎる』

『まさかホオズキに同情する日が来るとは』

『ケイカちゃん雑すぎぃ!!』

『かわいそう』

『はい切り抜き』

『正気か?』


 私は大真面目に正気である。

 悲鳴をあげながら落下していく彼をヒュプノスがジャンプして受け止める。慌てて近くまで寄ったレーティアも、ヒュプノスの腕の中の彼の無事を確かめているように見えた。うんうん、やっぱり愛されてるねホオズキさん。見るからにガタガタ震えてるけど大丈夫かな? 


『お前のせいすぎる』

『どの口が言ってんだ』

『お前が始めた物語だろ』

『サイコパスかよ。こわ……とじまりすとこ』

『こんなんトラウマだよ』

『ホオズキが高いところ登れなくなったらどうするんだよ。レーティアが乗ってもらえなくてかわいそうだろ』

『事件解決したあとにエレヤンに慰謝料請求されててもおかしくない所業』

『Q.事件解決の一手はなんでしたか? A.首謀者を高いところからぶん投げたことです』

『訳分からんなw』


 ヒュプノスがこっちを睨みつける。残念ながら当然の流れである。彼らの大事なホオズキさんが泣いてるもんね。危ない目に遭わせた私を睨んで怒りに飲み込まれても仕方ない。でも、だからこそ……ホオズキさんの言葉が効きやすくなるのだ。


 ドヤ顔でホオズキさんに向かって親指を立てたが、彼はちょっと困惑していた。……あれ、もしかして通じてない? そういえば説得してね! いけるいける! しか言ってなくて、作戦自体は特に伝えてな……いやいや、気づいてくれるって! 大丈夫だよね! 信じてるよホオズキさん! 


『本日のガバ』

『なぁにやってんだこいつぅ!!』

『丸投げで草』

『無茶言うな』


 お姫様抱っこされているホオズキさんがヒュプノスに抱きつく。震えは治ったらしい。


「レーティア、いりません。俺は……忘れなくていい。確かに怖かったのですが、忘れなくていい。忘却の水は飲みたくありません」


 それから、今の怖い出来事を忘れさせようと近づいてきたレーティアを明確に拒絶した。レーティア自身を拒絶したわけではない。しかし、はじめて強くハッキリと拒絶されたのだろうか? レーティアは衝撃を受けたような顔で一時停止した。けれど、すぐに持ち直して水を尻尾に乗せてホオズキさんの口元に持って行こうとする。ヒュプノスもそれを良しとするものだから、さすがにこればかりは私たち側で止めるしかなかった。


「オボロ、凍らせて。レキ、拘束しちゃって。話し合いくらい聞いてもらわなくちゃ意味が……」


 オボロがレーティアの周囲に渦巻く川の水ごと凍らせてしまえばいい。そう思って指示を出したのだが、ホオズキさんが大声で説得し始めてしまったものだから私たちは止まらざるをえなかった。


「俺が怖い思いをしたとき! 今みたいにお前たちが心配してくれた。その事実は、怖い思いをしないと知ることができない。だから、俺は忘れたくない!」

「ぐるるる……がう……ぎゃう……」


 レーティアは戸惑った。しかし、それでもヒュプノスは首を振ってレーティアの水を手のひらですくって片手と尻尾で支えている彼に飲まそうとする。ちょっとの説得ごときで彼らが止まるのであれば、そもそもここまで事件の事態は悪化していないのだ。

 ヒュプノスのその行動は、今までもそうしてホオズキさんの訴えを聞き入れなかったことが窺い知れる内容だった。


「……ヒュー」


 諦めかけている彼に、私は大声を出した。

 その拳にはいまだにうっすらとした光が見える。なら、大丈夫だ。きっと。分かりあうために必要なのはスカウトの光と、接触。そして攻撃や、気の惹ける心を癒す行為。今の彼らに必要なのは、言葉だけじゃない……強い拒絶だ。


「ホオズキさん! グーパンチです! グーです! グー!」

「……え、ええ!? ……すみませんっ!」


 平手打ちだった。

 でもはじめて手をあげてきたホオズキさんの反抗にヒュプノスはびっくりしたように動きを止め、その手の中にあった水をこぼす。ポタポタと水が滴り落ちて、その衝撃度合いを物語っていた。


「教祖様……なんで」


 ヒュプノスに人の言葉が戻ってきた。

 それを聞いて、ホオズキさんは泣きながらそのお顔を両手で抱いて頬を寄せ、撫でる。お前の気持ちは嬉しいよと肯定しながら。


「ヒュー、レーティア。話をしましょう。俺の話をちゃんと聞いてくれますか?」


 小さく頷く二匹は、あどけない子供のような顔で教祖(おや)の言葉を待つ。啓示を聞く敬虔な信徒のように。盲目的に愛するただ一人の人間のために。


「ケイカさんも無茶をさせますね……どうなることかと思ってました」

「結果オーライですよ」


 様子を見守ることにした私の隣に、ようやくここまで走って戻ってきたハインツさんとグレイスがやってくる。さっきのやりかたを見てそれ相応にドン引きしているようだったけど、私が結果オーライだと誤魔化せばものすごく困った顔をしながら笑った。どう見ても愛想笑いだった。


 二人でなにか不都合が起こらないように見守りながら、ホオズキさんの言葉を聞き取っていく。

 しかし、もう構えていなくてもヒュプノスたちが彼を無理矢理忘れさせようとすることはないだろう、と思っている。それくらい、物理的な抵抗を含めた拒絶がショックだったはずだ。


「ヒュー、レーティア。もし、先ほど俺が大怪我をしていたら……死んでいたら、お前たちはどう思うでしょうか? 嘆き、悲しみ、苦しみ、後悔するでしょう」

「! ……そんなことさせない! 絶対に、絶対に教祖様はボクらが守るんだから!」

「もしもの話ですよ。もしそうなったら、お前たちは悲しむでしょう。俺も、お前たちが死ぬことがあれば、きっと嘆き悲しみます。それだけ大事なパートナー……だからです。たとえ、共存者の証がなくとも」


 想像したのか、ヒューが泣きそうな顔をする。その頬を撫で、そして覗き込んでいるレーティアの顎も撫でてホオズキさんは話を続ける。


「その悲しみを取り除くためといって、お前たちは川の水を飲んで俺を忘れようとしますか?」

「そんなことしない! 絶対しない!」

「その悲しみは俺がいるからこそ発生したものですよ? それでも、忘れたくないんですか」

「当たり前だよ……! だって、ボクらが今生きてるのは教祖様のおかげで……それを忘れたら、ボクらは空っぽになる」


 静かに質問する彼に、悲痛な声で否定するヒュプノス。

 そのやりとりはきっと今までもあったのだろう。彼らではなく、ハインツさんのように忘却に抵抗する人々と。

 同じ立場になってみなければ想像がつかないこともある。だからこそ、ホオズキさんは自分を引き合いに出して彼らに教えようとしているのだ。辛い記憶も含めて思い出なんだと。


「教祖様は傷ついて死にかけてたボクらを拾って育ててくれた。幼い頃からずっと、ずっと! そんなあなたが……記憶から抜け落ちたら、ボクらにはなにも残らない。空っぽだよ。どうして生きているのかも、どう生きていたのかも分からなくなって、迷子になる。迷子は嫌だ。迷子は嫌だよホオズキ様……」


 縋るような幼い声に胸がきゅっとなる。

 そんなヒュプノスを撫で続けて、ホオズキさんが静かに会話を続ける。


「俺にとっても一緒だ。俺も、お前たちと出会ってから変わったんです。その出会いがなくなってしまえば、どうなるかは分かりません……想像もしたくない。でも、出会いには別れが付きもの。俺は共存者ではありませんから、俺のほうが先に死ぬことも、お前たちが先に死ぬこともあるでしょう」


 システム的に、共存者とパートナーとなった獣の寿命は統一化される。共存者側に寿命が合わせられる。たとえどれだけ長命の獣でも、パートナーが死ねば一緒に死ぬのだ。

 だが、かつて共に死なせてもらえなかった者たちを私は知っている。逃がされたユールセレーゼたちに、アインさんから契約を解除されて逃がされたホウオウさんたち。人間はいつだって愛する獣たちが自分の分まで長く生きて幸せになることを願っている。


 もしものときが来たら、きっとホオズキさんもそうするんだろうなと漠然と感じた。


「死は悲しみを生みます。しかし、その悲しみを忘れるために水を飲めば、その人の存在ごと忘却の川に捨て去られることになる。今まで、俺たちはそれでも幸せのためにと、無辜の人々に水を飲むことを強制してきました。あれがどれだけ残酷なことだったのか……今なら分かります。俺は、お前たちのことを忘れたくない。たとえ、苦しく悲しい思いをするとしても」

「……そっか…………そうだね。ボクも、教祖様のこと忘れたくない。忘れたく、ないよぉ……!」

「シャアアア……ゥゥゥゥ」


 ポタリ、ポタリ、レーティアの瞳からも涙が落ちていく。

 ヒュプノスも泣いている。そんな二匹の体と頭を抱いて、ホオズキさんも泣いていた。ぎゅうきゅうに抱きしめあって、みんな泣いていた。


 天井の穴から降り注ぐ朝日に照らされ、一人と二匹のまんじゅうが寄り合って泣き続ける。自分たちのしてきたことを理解して、そして自分たちでそれを想像して、ようやく分かってくれたのだ。そうでもしないと、分からなかったのだ。二匹とも精神が幼いから。


 ヒュプノスとレーティアの瞳から赤色が薄れ、額の宝石から黒い濁りが溶けるように消えていく。


 彼らを撫でるホオズキさんの手には、いつのまにか濃く、ハッキリとした共存者の証が刻まれていた。


「本当に、共存者になれたんだ……」


 小さくつぶやいて笑う。

 共存者とは生まれつきの資格である。それを覆す出来事が目の前で起きたのだ。これを奇跡と言わずしてなんと言おうか。


 憂鬱も、悩みも、苦しみも、後悔も、悪ではない。それは前に進む足を止める枷になることもあるし、同時に前に進むための原動力になることもあるものだ。一概に善悪だと決めつけられるものではない。それを決めるのはその人自身だから。

 だから、私は彼らの思想を否定して、そして説得して、こうして事件解決まで導く……いや、見守ることになった。


「これからも、私は私の信じる道を突き進んでいこうと思います」


 それが間違っていると思ったなら、きっとアカツキたちが止めてくれるだろうから。だから、私は安心して歩き続けることができる。このゲームの世界を自由に。気ままに。自分の進みたい方向に進み続ける。


「その道中で、あんたに救われる人もたくさんいるんだろうな……僕とグレイスや、あのホオズキさんのように。ケイカさんは太陽みたいに眩しいから」

「これからもそうしていけたらいいですね。みんなハッピーなのが一番なので!」


 ハインツさんの言葉にちょっと照れくさくなってしまい、明るい声で誤魔化す。ハッピーエンドが一番だ。なにごとも。


「ハインツさん……お疲れ様です。やりましたね」

「ええ、はい……なんとかなってよかったですよ」


 私が手のひらを向けると、ハインツさんも軽く手を合わせてハイタッチをする。

 そして、私たちはホオズキさんたちの元へ向かった。


「おめでとうございます、ホオズキさん」


 泣きじゃくる一人と二匹の前で柔らかく笑いながら、手を差し伸べる。


 太陽の神獣は見ている。この世界のどこかで人々の行いをずっと見ているのだ。そして、それがこうして報われることもある。その証人へと彼はなった。だから、先輩として私が言うのだ。


「改めて、ようこそ共存者の世界へ! ……歓迎いたしますよ」


 私の手を取った彼の手のひらにはしっかりと共存者の印がある。

 太陽の祝福を受けた証だ。この世ではじめての生まれつきではない共存者の誕生が叶った証拠が、そこに確かにあった。



 ――――――


 *ワールドアナウンス


 おめでとうございます! 

 ストーリーミッション【憂鬱の消えた街】がはじめて完全クリアされました! 


 プレイヤー名: ケイカに【太陽の使者】の称号が与えられます! 



 ――――――



 ――――――


 *ワールドアナウンス


 ワールドストーリーに【忘却の教祖たち・完全和解】が加えられます。ストーリークリア者以外の解禁は手順に沿ってのみ行われます。


 ――――――



 爽やかな風が吹いて、高らかなファンファーレが鳴り響く。


「ワールドストーリーだったんだこれ……」


 密かな私の呟きは、コメント欄の視聴者たちにしか聞こえなかった。

この章の残りはエピローグがちょろっと。


それから、同じくVRゲームもので「腐食世界のガーデンテイマー」という作品の投稿を開始しました。


こっちはモンスターを集めて、庭づくりをして、探索をして、図鑑を埋めていくゲームです。私の自分がプレイしたいゲーム第二弾ですね。

よければそちらも読んでみてね!

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― 新着の感想 ―
いやはやめでたい
>『Q.事件解決の一手はなんでしたか? A.首謀者を高いところからぶん投げたことです』 >「本当に、共存者になれたんだ……」 Q.NPCを共存者にする方法があると聞きました。どうすれば共存者にさせ…
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