深海魚に強い光はいけません
アカツキが炎を纏いながら円を描く。擬似太陽が深海に輝き、その瞬間轟音が鳴り響いた。ふよふよと浮いていた人型が勢いよく頭上に飛んでいき……いや、振り上げられ、ぶんぶんと激しく蠢く。
よく見てみれば、本体であるオニアンコウ――牛鬼が突然の極光にびっくりしてパニックになっているようだった。
「ぬぁぁ!! 深海魚にいきなり強い太陽の光はあかーーーーん!!」
焦る濡姫の声が響く。
そして、コメント欄に草原が生まれた。
「あ、ごめんなさい」
前回会ったときには見られなかった反応に、私はポカンとしたあと遅れて呟いた。いや、あの、前回も似たようなことやって大丈夫じゃなかった? あれ? おかしいな。……あ、あのときとは違ってアカツキはすでにレベルカンストか。なんか、うん、ごめんなさい。
「ぐぐぐ、速攻で擬似餌を見破って攻撃を仕掛けてくるとは……もしやイベントのときに会ったか?」
「え、あ、はい」
「やはりか。うーん、記憶力があまり良くなくてな。すまない」
なるほどね、どうりで……初対面のときとまったく同じ口上だとは思っていたんだ。あれ、定型文なのかぁ。
濡姫さんは「ダーリンンンンン!! 目は大丈夫か!?」と慌てて回復スキルを牛鬼に使った。申し訳ない……。
「んっんっ、して、今回はなんの用だ? 手合わせなら喜んでこの濡姫が受けてしんぜよう」
『鬼楽は喧嘩っ早いなぁ』
『腕試しするのが好きなんでしょ?』
『まさに鬼って感じ』
腕試しや手合わせも一度してみたい気はするが、今回の目的は『深海の灯火』である。火の灯っていないランタンは持って来ているので、あとは交渉して受け取るだけなのだが。
「いいえ、手合わせをしに来たわけではございません。ここに来れば、深海の灯火なるものをいただけるのではないかと思いまして」
「なんと、ダーリンの体目当てだと!?」
人聞きの悪いことを言うんじゃない!!
『草』
『まーた大草原』
なんでこう、神楽の頂点にいる人達ってこう、変にポンコツなの? 運営の趣味?
「体……深海の灯火はチョウチンの部分から受け取れると伺っていたのですが、いただけませんか? 対価が必要ならいかほどか教えていただければ用意します」
「ぬう、慌てもせんとは。心臓に藻でも生えているのか? しかし、わざわざ謁見にやってきた者の頼みだ。灯火は定期的に排出しなければ健康にも悪い。だから対価はいらんよ。さ、ダーリン、授けてやれ」
心臓に毛じゃなくて藻とな……さすが水中に城を持っているだけはあるな。ことわざも水中バージョンか。
「ありがとうございます」
プラちゃんとシャークくんを床におろし、私はランタンを掲げ持つ。
牛鬼は巨大な体をゆっくりと動かしてチョウチン部分を再び私達の前におろした。その様子を見てアカツキがお辞儀をする。さっきのことを謝っているのかもしれない。オボロは若干怖いのか、私の足元の後ろ側にピッタリとくっついている。プラちゃん達でさえ平気なのにオボロ……。
「ふむ、用意がいいな。少し待て」
女の子の形をした擬似餌が手のひらの上に、ゆらめく青白い炎を捧げ持つ。そして、するっと私の掲げているランタンの中にその炎を落とした。
ランタンには青白い炎が灯り、水面が揺らめくように、あるいは波紋が広がるような動きをしている。炎と言うには熱が低すぎて、水と言うには熱が高すぎる。そんなぬるい炎。水中にあるように周囲を少しだけ温めるようだ。
「ありがとうございます!」
「良い良い、また遊びに来てくれるのを待っているぞ。次は手合わせしような」
「は、はい」
鬼と手合わせかぁ……やる機会あるかなぁ。
こうして、私達は目的の『深海の灯火』を手に入れ、ついでに岩場で釣りまくったカジキマグロをお土産に樹海方面へ帰って行ったのであった。




