霧祓いの神前舞踊を納めて
「我が友、暁光より来たる使者。我の翼となり、共に空を舞い踊れ! アカツキ、『神獣纏 暁光の翼』!」
アカツキから贈られたアニマ・エッグ・ジュエリーを掲げて叫ぶ。
それと同時に肩に止まったアカツキが翼を広げ、私達が炎に包まれた。
緋色。
目の前に揺れる緋色の炎と、ぶわりと靡く緋色の髪は赤く、紅く、緋く。
背骨に新たな器官が生えてくるような違和感と熱を感じる。しかしその熱は心地好いもので、改めて疑似骨格のできていくメカニズムを心に刻む。面白い。テンションが上がる。
私の羽織りが炎の熱で巻き上げられ、まるで翼のように揺れた。その先からこちらも段々と緋色に染まりゆく。熱変色する羽織りを視界に入れながら、擬似骨格を動かす感覚を思い出す。
残念ながら翼はスキルの産物なので羽織りを押し上げながら現れているわけではないが、アカツキとお揃いの色をした紅白の翼が緋色に染まる羽織りと相まって美しい。
翼をはためかせれば扇子から散る火の粉が周りに散った。
「アカツキ、連撃行きますよ」
「カァッ!」
肩から飛び立ったアカツキが私と同じく火の粉を散らしながら、くるりとその場で回転する。
黒い霧の周囲でときおり弾ける紫色の電撃が待っていましたとばかりに私達のほうへ寄ってきた。
「アカツキも、ジンもいいですね。一気に突っ込んで広範囲の霧を吹き散らします」
「なあん!」
「……ふう、よしっ」
落ち着け。
集中しろ。
今はコメントのことなんて気にするな。
気を散らすな。
今この場で動けるのは私達だけと知れ。
だから、だから、お願いアカツキ。ジン。皆。私と一緒に、少しだけ頑張ろう。
「クァゥ!」
まずは、一撃。
「神前舞踊――『紅翼一翔 暁光』」
一本歯の下駄を地面にめり込むほどの勢いで踏み込む。バフ全部乗せ。ついでに気合いは十分。テンションもマックス。身体を前傾させ、一気に背中の翼で空気を掴んで……アカツキと同時に翔ける。
錐揉み回転するように翼で空気を掴みながら勢いを乗せ、霧に肉迫し両手の鉄扇を交差させる。風をはらんだ羽織りが舞い上がり、その場の空気がかき回されるように頬を叩いた。
視界の端で同じように紫電が煌めき霧を散らしていく。
「まだっ、次!」
技の動作が終わった後、すぐさま体勢を整えて地面を叩く。
今度は頭上に飛び上がる。まとわりつくような霧で動きが鈍くなろうが関係なしに技を連結していった。
「神前舞踊『飛梅円舞』!」
地面から飛び上がって上空に。
その動きのままに下から上に斬りあげるような動きで鉄扇を振るい宙で回転。散っていく暁の灯火が霧を打ち祓い、まるで太陽が暗闇を照らすようにその場に炎の円環が出来上がる。
中身はどこだ。
内心焦りを覚えつつも霧を散らせ続け、宙に浮いたままバサバサと翼で空気を掴み、上昇から次に繋げる技へと体勢を変える。
「神前舞踊『日輪の舞』」
今度は斬り下げ。
緋扇を使い、その場で縦向きに前回転するように斬撃を振るい、火の粉をどんどん散らす。宙に浮いたまま翼の動きで補助し、空気をかき回して黒い霧を攪拌するように。
そして一番最後には……。
「クァーッ!」
「なぁん!!」
「っ、よくやりました! アカツキ、ジン!」
本体を見つけたらしいアカツキとジンの鳴き声が上がる。
暗闇の中でもいっそう美しい太陽のような鴉が居場所を報せていた。ならば私は最後の技に繋げるのみ。
翼で風を掴んで宙を蹴るように――。
「これは運営にも認められた唯一の私の技です! とくと味わえ!」
――落ちる。
「神前舞踊『青嵐』!」
落ちて、落ちて、回転しながらその場所に向かって最大威力の踵落としを叩き込む。
「一歩歯の下駄は! さぞ痛いことでしょう!」
そして衝撃。
僅かな手応えらしきものと共にその場で初めて相手の悲鳴らしきものがあがった。
「あと二分っ」
なんとか、神獣纏が解けるまでに撃退まで持ってこられただろうか? そう思ったのもつかの間で。
「ニクイ、ニクイ、ニクイ……黄金ノ瞳ヲ持ツ魔獣ガ! ドコダ、ドコダ、ドコニイルンダヨッ! 部外者ハ、邪魔ヲシナイデクレ!」
声が聞こえた。憎しみに染まり上がった、強い声が。
そして、絶望の足音は唐突にやってくる。
「霧が晴れていくな? やったのか小娘!」
暗闇の外から、声を張り上げるジジイの声音。
あの野郎、迂闊すぎないか!?
「まだ終わってません! 来るな! 引っ込んでいなさい!!」
NPCってさあ! NPCってやつはさあ!!!
「黄金ハ、魔獣」
声の方向を向く黒い影に、ぐんと手を伸ばす。
影は大きな翼を広げてその場を飛び出した。
間に合わない。
間に合わない。
間に合わない!
追って私も翼を広げて翔ける。
技を使う?
あの黒い影の背中にアイテムでも使おうか?
シズクの威嚇する声が聞こえる。
シズクならなんとか防げるかもしれない。
でも防げなかったらどうする?
里長が死ぬかもしれない?
そんなの許さない。
ああ、間に合え。間に合え、お願いだから間に合え。
扇子を投擲する。
影が振り向いて叩き落とした。少しだけ距離が縮まり、手が届きそうになる。
まだ届かない。
そもそも、影を止めようとしても避けられてしまったら里長はどうなる?
くぐり抜けられたら守れない。シズクのことは信じているが、万が一があってはならない。それならば回り込んで里長を庇うほうがまだ助けられる可能性が高い!
どうすれば。
どうすれば。
――――――
【チュートリアル】
チョイスタイム 00:05
――――――
その表示が見えた途端、世界がスローモーションになった。
カウントダウンがゆっくりと減っていく。
なるほど、私がこの状況でどうするか。その選択の時間ってわけか!
なら私が選ぶのは――。
「小娘!?」
翼でスピードを無理矢理上げて影を追い抜き、里長を突き飛ばす。そして遠心力に任せて全力で投擲しなかったほうの鉄扇を影の頭部に叩きつけた。ガツンという重い音と共に影の姿が鮮明になっていく。
それと同時に、影の爪が私の心臓部に突き刺さっていた。
「……」
一瞬の無言。
パリンという音が響く。私が保険でかけていた即死無効のスキルが発動し、夥しい量の蝶が体の内側から飛び発っていく。
鮮明になった相手の姿は真っ黒で、体の大きな鶴。
四つの瞳は怒りのこもった赤色に染まり上がっていたが、やがてふらりと体を傾がせて倒れゆく。
鉄扇で頭を叩いたことで意識を失ったようだった。
……ん、意識を失った? 撃退でもなく?
「こ、小娘……貴様、なんて無茶を」
なにやら感傷に浸っているような里長の声を無視して、私はいつまで経っても『撃退完了』の合図が出てこないことに焦りを覚えた。
こ、これはいったい……?
「れ、レキーッ! 今すぐ!今すぐに来てください! アカツキ、レキを連れてきて! 速攻!!」
「カァーッ!」
このあとめちゃくちゃレキに拘束してもらった。
レキと一緒にやってきたアリカ君は、背後に宇宙が広がったような顔をしてその様子をただただ見ていた。
「か、カナターッ!?」
あ、やっぱりそうだよね?
「ほら、里長! 本物ですよ! 物的証拠! ほら! 見てください! ほら! ほら! ほら!」
「あー、もう、それは分かったから。落ち着きなさい」
興奮して里長の長い首の肩らしき部分を掴み、ゆっさゆっさと揺らしていたらものすごく呆れた声で叱られた。しゅんとして手を離す。せっかくの物的証拠なのに……褒めてくれない……。
「目の前で庇われた挙句お前が死にかけたことに対する俺の感傷を返せ」
「死ななきゃ安いじゃないですか」
「うるさい、やっぱり貴様なんぞ嫌いだ」
あ、そうだコメント……と思ってコメントをオンにして一番最初に目に入ったのは。
『本当にシリアスクラッシュしかしないよね??? 空気読んで???』
という言葉でした。
なんか……ごめんなさい。
――――――
目標: 黒い霧の撃退……失敗。
準目標: 里の住民の全員生存……達成。
撃退の代わりに捕獲が成功。
この情報はシステムに送られます。
この情報はシステムに送られます……。
――――――
アッハイ。
カッコ悪いほうのサブタイトル案
「これだからNPCって奴はよぉ!!!」
推理ジャンルに投稿してるやつのタイトル変更。
「スズメとオオカミの虚構怪異事件簿〜怪異に見せかけられた事件の真実を暴き出せ!〜」




