雪月花の美しい隠れ里
夜、月虹の輝く樹海にて。
私達は誰にも見つからないよう、こっそりと一番近い一本松の場所までやってきていた。
「ここでいいんですか?」
「ああ、誰もいないな?」
「今のところは」
周りを見渡してもプレイヤーの姿は見当たらない。普段ならわんさかいるが、今は一番北の一本松のところに集まっていることだろう。掲示板で北になにかあるかも? という噂が立ったのだ。
しかし、私の仕業ではない。多少のデマや釣りくらいなら厳重注意対象にはならないけれど、今回のは普通に噂を利用して便乗しただけだからそういうのを気にする必要もないし。
アルターくん達運営は明確な誹謗中傷やプレイヤーの中身に対する攻撃には敏感だけど、見当違いな噂とか釣りとかは静観している節がある。情報に踊らされるのは掲示板の醍醐味だからね。仕方ないね。
「んじゃ、俺と手ェ繋いでくれるかい?」
「分かりました」
にっこり笑うアリカ君と手をしっかりと繋ぎ、目を合わせる。
「なにがあっても驚かずについてきてくれるかい?」
「ええ」
そして、動き出したアリカ君に合わせて隣を歩く。
だんだんと大きな松の木が近くなる。アリカ君が真っ直ぐと向かっているのは……大きな松の木の幹だ。
ま、まさかまさかだったりする?
そんな内心でドキドキしながら歩みを進めて行く。
松の木にぶつかる、その寸前に若干の恐怖を感じて目を瞑った。
これから起きることがなんとなく想像できていたけれど、それでも真っ直ぐ木の幹に突っ込むのは怖いと思う。
案の定、木の幹は素通りして景色が一変する。
そこは真っ白だった。
いや、正確には雪で覆われていた。
樹海の真ん中に、なぜか雪で覆われた場所がある。それだけでだいぶ変なのに、頭上には月虹がかかっているし、なんといたるところに寒桜まで咲いている。季節感が微妙におかしいが、まあここはゲームの中だ。ゲームの中でしか見られない景色というものもある。
満開に咲いた桜に雪が少しだけ積もり、ところどころに存在する灯籠に照らされている姿は、ライトアップされた夜桜のようだ。確か、リアルでも春に雪が降るとこんな感じの景色になるんだったっけ……写真だけなら見たことがある。
里全体は大きな窪地になっていて、奥の崖の上に樹海の入り口から見えた虹の橋へ繋がる場所がある。隠れ里と言うからには規模が小さいほうなのかと思っていたが、どうやらそうでもないらしい。
地には大きなお屋敷みたいなものや小屋のようなものがたくさん建っているし、崖の窪みを利用して作られたらしいお屋敷まである。つまり、崖の途中に家が建っている。あれ、バランスどうなってるんだ。それに、人間じゃああそこまで辿り着けなさそう。この子達がツルだからか、飛ばないと辿り着けない場所もいくらかありそうだ。
しかし、生活様式が人間のものと変わらない。人間の姿は擬態ということだったけれど、案外元の姿でも人間じみた生活をしているのかもしれない。それか、単純にこのほうが便利だからとか?
ゲーム的な都合という可能性もなくはないけれど……。
きょろきょろと辺りを見回している私の腕を、手を繋いだままのアリカ君が引っ張る。されるがままについて行けば、彼は辺りを警戒しながらもにぱっと笑う。
「ようこそ、天楽の里へ。姉ちゃん、俺の家貸してやるから早く行こうぜ。里の連中に見つかると面倒だ」
「えっ」
「皆ピリピリしてんだ。なんか、帝国の密猟団が近くを通ったとかなんとかで、人間に対して当たりが強いかもしれねェ」
アリカ君は「普段なら辿り着けたやつを歓迎するんだけどなァ」なんてぼやいている。いや、それ結構まずいのでは。
アルカンシエルの街で隠れなければならなかったのはアリカ君だが、どうやら今度は立場が逆になるらしい。
というか天楽って言った!? やっぱり神楽と関係あるのか……あとでその辺も詳しく聞いてみようかな。
「配信するときは声量抑えませんとね……」
温泉があるというアリカ君のお家で狂喜乱舞しながらセーブしたのは、また別のお話。
雪見と花見が両方できる温泉とか最高!!
月がないのに雪月花?
>>すぐそこに月目の子がいるじゃろ?
温泉
>>水着着用。ランダムで小さなバフがかかる。
天楽
>>転落。「月が天から落っこちてきた」という表現が実はヒントでした。転落の言葉を使うと直接的過ぎると思ったので。




