月が『天』から『落』ちて来た
樹海に生息する食べ物系魔獣・聖獣は四種類。
ムームーパン。
この子がいるだけでミルクをふんだんに使ったふわふわのパンを作ることができるようになるため、パン屋さんなどは喉から手が出るほど欲しがる聖獣。
パフェローパフィン。
住処を七色のお菓子に変化させてしまうカラフルな鳥。住処にあるものを材料にしてパフェを製作するため、同じ種族でも住む環境によってかなり見た目と作るものに違いが出る。喫茶店系の人や検証目的の人が積極的にスカウトに出ていることに定評がある。
プレッツェレオン。
タテガミが結び目の形をしたスタンダードなプレッツェルでできているライオン。これを採取して食べても一日で自然と生え変わるので本人も全く気にしないうえ、プレッツェレオンの固有補助スキルを発動することで美味しいプレッツェルが焼ける。
そして最後のクワックベリー。
自身と同じ名前の果実を育てるアヒルで、このベリーはクワックベリーがいるところでしか採取できないためお菓子職人に血眼になって探されているらしいとの噂だ。レア故に見つけるのも長丁場になることは覚悟済み。リリィもその辺は覚悟済みのようなので安心して樹海を探し回ることができる。
三匹目まで微妙な食品アピールと試食会を重ねてなんとかスカウトを成功させ続け、疲労を感じてきた頃に一本松の麓でピクニックを開始した。夜だけど。なぜか虹で明るいのでそこまで危険じゃないのだ。
……なんで虹で明るいの? 光の反射だから? それとも発光しているの?
「どうしました?」
「……いえ」
とりあえず、私は考えるのをやめた。考察班頑張って。
とまあ、三匹スカウトしている成果の通り、なんだかんだリリィの希望する食べ物系魔獣のスカウトをこなしていき、ようやっと最深部まで辿り着くことができたのである。休むのも仕方ない。
相変わらず地図の真ん中や虹のふもとには辿り着けていないが、ゲーム内時間で一日を終える前に三匹目まで行ったのは正直奇跡だと思う。特にリリィの……というかNPCのスカウト方法が奇想天外で、スカウト難易度がプレイヤーよりもよほど厳しいところからして。
「それぞれでお料理します?」
「そうしましょうか。わたしのほうもこの子達と交流したいので」
尋ねつつ、さっそく簡易テントセットを設置して、小さな料理セットも設置。了承も得たので、私は私でレキの背中の植物に栄養剤入りのお水を霧吹きで散布したり、緋羽屋敷で採れた果実類を使ってお菓子を作って食べることにした。リリィもリリィでさっそく仲間入りした子達と協力して料理を開始した。距離感を測りながらちょっと遠慮がちに仲良くしているのがまた、微笑ましくていい眺めである。
もちろん、リリィとお菓子の交換もした。
特にプレッツェルがタテガミになったライオンというのは……こう、すごくデザインがどこぞのドーナツ屋さんを思い出して、余計にお腹が空いたというかなんというか……プレッツェルも大変美味しゅうございました。
「アカツキは果物だけでいいんですか?」
「カァ」
「シズクは?」
「シャー」
生卵ですね分かります。丸い果実と卵を渡し、テントの外にある松の木に背中を預けて座り込んだ。そして少しだけリラックスをして、遠い夜空を見上げる。
……月夜にかかる虹は見えど、そこに月はない。
本当に不思議なところだ。
さて、残りは当初の目的だったクワックベリーのみ。すぐに見つかるといいんだけどなあ……そして、クワックベリーをリリィがスカウトできたら、彼女の手持ちは五匹になるのか。
しかしお店はホームだから連れ歩ける数の制限がないし、数が増えてもこっとんちゃんの立場は揺らがないだろうが……まあ、またちょくちょく遊びに行けばいいかな。リリィに似て、こっとんも自分の自己評価みたいなものは低そうな設定しているもの。可愛い子には世話を焼きたくなるものなのだ。リリィちゃん、本当に推せる。
夜空から新たな仲間とわいわい騒ぐリリィと、会話と翻訳をしているレキ達へ視点を移動して目を和ませる。癒し空間。マイナスイオン出てそう……。
「クァー! クァー!」
「ん、アカツキどうしました?」
ふと、アカツキが頭上を見上げてから私の服の裾を一生懸命に引っ張り始めた。気になってその視線の先を追うと同時に、アカツキがその場から勢いよく飛び退いて「えっ」と声をもらす。
頭上に影が差す。
見上げたときに見えたのは、二つの黄金。
まんまるの、まるで満月がそのまま夜空に浮かんでいるような光景。
そして遅れてたくさんの白と、黒と、赤。
「ふぎぅっ!?」
上から降ってきたものとおでことおでこでゴッツンと痛々しい音を立てながらぶつかり、私はその場に目を回して倒れ込む。ついで、倒れ込んだ私の上にでっかいなにかが覆いかぶさるように倒れた。
「ケイカさん!? えっ、ツル!? なんで鶴!?」
状態異常: 目眩。
ポップした表示を見ながら私はその正体を捉える。目を回して私の上に乗っかっている丹頂鶴の目は、四つあった。
そのうちの二つが月のような黄金で「ああ、月が天から落ちてきた」と妙な納得をしながら、また変なフラグを踏んだなと確信する。
夜の闇の中のような濃い紺色の瞳の上に、黄金の宝玉をそのままはめたような月目のツル。どう考えても特異な種族。そして、松の木から落っこちてきたという符号。全てが繋がってこの子が噂の源だと理解する。
それと同時に、遠くから聞こえて来る怒号に身を竦ませるツルの姿全体に目をみはった。翼が血塗れだ。表現規制をかけていたら赤いポリゴンで表されるだろうが、私は今規制をかけていない。故にその傷跡が中傷から重傷寄りの怪我だとすぐに判断できた。
「あっちに落ちたぞ! 追え! 痛めつけて霧を晴らさせるんだ!」
その声にストンと表情が抜け落ちるのを感じる。
なんというかなあ、単純に、なんかやだ。ムカつく。だから。
「ツルさん、私達のテントの奥で伏せていてください。大丈夫、あなたには一切触れませんから」
状態異常が治ってから、優しく微笑んでそっとテントを手で示す。
四つ目のツルは戸惑っている様子だったが、声が近づいて来ると慌ててテントの中へ入った。
「リリィ、あの子に触れない程度の場所で聖獣達と寝たふりをしてください。私が必ず守ります」
「……お願いします」
「シズク、治療を」
「しゅるるる」
テントの中に引っ込んでいくシズクを見送ってから夜空を見上げる。
ツルならあちらのほうへ逃げて行きましたよと誤魔化すために。万が一テントの中を見せろと言われたときのために、言い訳と理由もしっかり考えてある。あとは私の演技力にかかっているだろう。
今は違う依頼やってるんだから攻略は他に任せればいいのに、と心の中で囁く自分もいる。しかしそれ以上に別の感情が上回った。だから行動する。隠す。
どうして庇うのか?
どうして攻略するプレイヤーの邪魔をするか?
善人のつもりか? そんなもの偽善だろうって?
こんなもの、優しさなんて言葉で表していいものじゃない。それでもキーキャラっぽいツルを隠すのは単純に……。
ただ、私がムカついたから嫌がらせしてやろうと思っただけ。
――この行動にそれ以上も、そして以下もない。
神獣郷こっそり裏話
Q.なし鯖なのになんであんなやつらがいるの? ホウオウの心優しさが云々マル無視してるじゃん。
A.「だってあり鯖の修羅道じゃ活躍も俺TUEEEもできないもん」というタイプの、高難易度以外にどこにでも潜むイキりプレイヤーです。こいつらのほうがもちろん少数派だよ。
Q.ツルはどこで襲われたの?
A.好奇心旺盛で外出中の個体がよそで襲われて松の木のところまで撤退して来たけど、松の木に飛び乗った時点で遠距離攻撃受けてさすがに落ちた。結構長い時間逃げていた(この辺は本編でも書くよ)
Q.里に行くためのイベントピンポイントすぎない?
A.これ以外にも松の木の近くでスカウトを二回成功させていることとか、怪我している魔獣聖獣を助けている回数がカウントされていたりとか、とある事情で罠にかかっているツルを助ける鶴の恩返し方式とか、いろいろとイベントに入るきっかけは用意されているよ。




