指輪の岩場と水でできた宝石
海の中に半分だけ沈んだ、直立した指輪のような『リング』の岩場。
本来の目的地である海域の特徴だ。そう、本来は幽霊船なんて目的地じゃないのだ。こっちが本題である。
六つの場所で恵みをもたらせ。
その言葉を実行するのに、岩場を登る必要なんてない……が、せっかくならどんなところか見ておきたいじゃない?
というわけで、私達はリング状になった巨大な岩場を頑張って登っているのでした。海から突き出てまあるく、そして階段状にリングが形成されているため、サメさんに近づいてもらって上陸。せまーい階段を登って行って頂上を目指した。
「高所恐怖症でもあったら辛いですねこれ」
岩場はリングになっているので階段もきつい角度だし、横幅もかなり狭く、当たり前のように手すりなんてものはない。後ろからオボロの鼻が膝の裏にちょんっと当たるたびにびっくりして落ちそうになったりする。
あ、そんな申し訳なさそうな顔しなくて大丈夫だよ……ゲームなんだから別に落ちてもダメージ受けるだけで死にはしないし。この高さなら海に叩きつけられたとしても体力半分くらい削れるだけで済むだろう。多分。
……普通に恐怖体験だな。
「怖いですし、慎重に行きましょう」
『このほっそい階段を一本歯下駄で軽々登ってる人がなんか言ってる』
『それな』
『器用値極振りの無駄に洗練された技能』
『ぶっちゃけいらんよね』
『シッ、消されるぞ……』
余計なお世話ですー! しまいには怒るぞ!
……最近結構『怒るぞ』って言ってない? なのに一度もキレたりしてなくない?
「怒りたいところですが、優しい私に感謝してください。見逃してさしあげます」
『聖女ですもんね』
『草』
『くっそwww』
『wwwwwww』
『大草原』
解せぬ。
◇
そして天辺。指輪の宝石部分に到着した。
案の定、宝石のようになった部分はダイヤモンドカットされたような岩になっているが、上部がぽっかりと開いていて中は空洞。水かなにかで満たしてやりたい衝動に駆られるデザインだ。
「というわけで、シズクよろしくお願いします」
「シュ!」
雨雲を呼んで雨を降らせる。
みるみるうちに水で満たされた岩は、岩というよりもガラスのようで、上から見ると水がダイヤモンドカットされて宙に浮いているように見える。下に戻って見上げてみれば、水の波紋が下からでも薄く見えるようになっていた。
まさに岩のリングに水晶のストーンがついたような光景。
「綺麗ですねぇ」
雨が降っているとどこか切なく、そして晴れていると太陽の光をキラキラと反射して神秘的な雰囲気になる。どちらの天気でも、『綺麗』としか言いようのない絶景。
『水もなかなか綺麗だな』
『うわーいいなあ……俺こんなイベントなかったや』
『そっか。進化に必要な条件を達成してってるわけだから、雨属性進化の人しか見られない光景なのか』
『そういや洞窟で火を篝火としてつけたって言ってたやつ、ここはどうだったの?』
『ここでも火でしたよ! リングの上部が向かい合った竜の首みたいになっていて、その両方に火を灯すとちょうどストーンのところに火が吐き出されてガーネットみたいになる感じだった!』
『えっ、なにそれ見たい』
私も見たいなそれ。ここだけでも二種類パターンがあるということは、他にも水晶やガーネット以外の宝石に見えるようになるパターンがありそう。
でも、一人のプレイヤーで全パターンを見るのはものすごく大変そうだ。こうやって繋がりを持ちながらいろんなパターンと景色、そして情報を共有して楽しんでいくのも、このゲームの楽しみかたのひとつなんだろうな。
「私も見たいです! あとでどこかにあげていただけませんか? いろんな景色が見たいですし!」
『初期獣も十二支+1だったし、もしかしたら誕生石も関わりあったりするのかな?』
『えーさすがに誕生日まで反映されると怖くない? それは嫌だ』
『いや、そういうことじゃなくてさ、属性に応じていくつか誕生石になってる宝石がここで見られるのかなって』
『あ、そういうこと? ごめん』
『いいよいいよ』
『やさしいせかい』
『本当治安いいな』
そりゃ、自分のアバターと専用スレッドのIDが一緒じゃあねぇ……下手したらアカウントBANされちゃうのにアンチ活動しようって奇特な人はなかなかいないって。
それにしてもそうか、誕生石関係もあるかもしれないのか。
それなら十二星座とかもそのうち関係してきたりするかな? 夢が広がるね〜、シナリオに期待していよう。
あ、シナリオに期待と言っても、感動系で頼みます。無駄にしんどいストーリーはせめて間になにかほのぼのするものを挟んでからにして……。
運営許すまじ。
「くうん」
サメさんに乗り込んだまま、オボロを撫でる。
さて、この美しい景色を背景にスクショをパチリ。
こうして私達は次の場所に向かうのでした。
美脚ミミックさんへの反応たくさんありがとうございますwまた新たなパワーワードが生まれてしまった……。




