共存者になりたかった男の住んでいた洋館(お化け屋敷)
「それでは、いってらっしゃーい!」
キャストさんをやっている鬼っ娘に見送られ、フェンスの内側に入る。
お化け屋敷は洋館のようになっていて、敷地内に入ったらスタートとなるのだ。故に、まずは表玄関の手前にあるフェンスを越えるところから始まる。
そして、錆びたフェンスは軋むような不快な音を出しつつひとりでにしまった。すぐ向こう側にキャストさんがいるはずなのに、フェンスが閉まった途端に辺りが暗くなり、一気に夜になったような状態である。
このお化け屋敷の舞台名は『ぬいぐるみの館』という可愛らしいものだけれども、その実態は『共存者になれなかった男がひたすら聖獣を模したぬいぐるみを作り続けたが、最後にはなんらかの理由で発狂し不審死した』という設定のある館である。
そして結びの言葉はこうだ。
【館の中には、今も男の執念がこもったぬいぐるみ達が眠っている】
【ぬいぐるみ達は自分が本物の聖獣だと思っていて、入ってきたものが聖獣ならば、その中身が自分達と同じかどうか確かめたがるだろう】
【共存者がここを訪れるならば気をつけたほうがいい……なぜなら、ぬいぐるみ達は共存者の聖獣を無邪気に襲ってくるうえ、男の霊は共存者を憎み聖獣達を引き剥がしてしまおうとするからだ】
はい、黒い神獣郷来ました。
このゲームって共存者になれた人と、なれなかった人との軋轢が結構あるよね。まあ、共存者になれたとしてもリリィみたいに拗らせることもあるようだが。
正直ありきたりな設定ではあるものの、神獣郷オンラインの世界観でホラーをアレンジした感じになっているので楽しみではある。せめて、乗り物系のアトラクションか、テキスト式のイベントだったらよかったんだけどなあ。
それならまだなんとか楽しめた可能性があるのに……なんでVRでホラーやろうとしたの……強制ログアウトになるほどビビリな人が来たらどうするの……。
【※ 注意 ※ ホラーが苦手な人はいつでも以下のコマンドから帰還可能です。また、それでも最後まで順路を歩きたいというかた向けに『ホラー表現緩和機能』がございます。各自の判断でご活用ください】
あっはい。
まあそうだよね。VRゲームだし、下手なホラーよりも絶対怖いはずだ。機械が身体の脈拍とかもろもろを計測しているから、極端な不調が確認されると強制ログアウトされてしまう。それだと怖がりの人がマップを埋めたりするのに余計時間がかかったり、そもそもここのマップを埋めることができなくなってしまうかもしれない。
それじゃあ不公平だ。運営もその辺分かっているんだろう。だからこその、この救済処置だ。できればお化け屋敷なんて設置してほしくなかったけどね!
「う〜、しかもこれ、個別空間に移動してますよ絶対」
静かだもん。先に行った人の悲鳴とか聞こえなくなってるし……さっきの入り口で聞こえていたのは、多分悲鳴だけ抽出して外にも聞こえるようになっているとか、そういうのだと思う。悪趣味がすぎる。
私達の布陣は以下の通り。
アカツキは胸元に抱きしめ、肩にはジンとシズクが乗っている。頬に当たるもふもふと、手元のぬくもり、そして足元に当たるオボロの毛の感触だけが心の拠り所である。
にしてもぬいぐるみの館ねえ。
普通のお化け屋敷なら多分、人形の館とかになるんだろうな。
また、共存者になれなかった男が発狂した理由は、キャストさんからは語られず仕舞いだった。館の中に入ればすぐに分かるということだったけれど……とりあえず、順路通りに行けばいいだろうか?
アカツキを胸の前で抱きしめながらそっと歩き出す。フェンスから館の入り口までは真っ直ぐで短い石畳の道になっていて、その両側に庭のようなものが広がっている。しかし、庭のほうに足を進めようとしても見えない壁のようなものがあって通れない。あくまでも順路通りに行けということだと思う。
見えない壁に一瞬ビビったのは内緒の話だ。
強制ログアウトというシステムがある以上、いわゆる『びっくり系』は少ない……と思いたいね。
『なあ、なんか二階の窓に見えるんだけど』
『え、どこどこ?』
『右から三番目の窓』
『なんも見えないけど』
『あれ? さっきなんかひらひらしてるのを見た気がしたんだけどなあ』
や め て く れ ま す !?
みんな私を驚かせようとしてるのか? いや、VRお化け屋敷だからありえないことはないんだけどさ。私は絶対見ないぞ。
さて、いよいよ中に入る。
扉に手をかけ、妙な緊張と共にオープン!
「ひょぇっ」
変な声が出た。
なぜなら、玄関を開けた瞬間に見えてしまったからだ。
まるで生活をしている瞬間を切り取られたかのように佇む……マネキンとぬいぐるみが無数に置かれているところを。
しゃがんだマネキンが犬のぬいぐるみを撫でている場面。
壁際に向かって立つマネキンをじっと見つめる猿のぬいぐるみ。
鏡で身嗜みを整えているかのような状態で静止したマネキンと、その脇でブラシを咥えた状態で待機しているイノシシのぬいぐるみ。
そんな感じで、マネキンとなんらかの聖獣がセットになった状態で、さらに「生活をしていた瞬間に時間を止めました」みたいな格好をしている光景。
あまりに異様な光景に絶句していると、トンッと背中を押されて思わずよろけながら中に一歩踏み出す。
「ヴッ……無理、しんどい」
思わず振り返ると、無情にも背後の扉はひとりでに閉まるところであった。
お願い、私をここから出して……無理。




