第三話 『冒険者ギルド』
冒険者ギルドの門を開けると、冒険者たちの活気に溢れた声が聞こえてきた。クエストカウンターの他にも飲食スペースや初心者講座が開かれているあたり、流石は王都の冒険者ギルドだな。
ナツミは初めて来たらしく、呆気にとられている。
「こ、これが冒険者ギルド……マンガと同じですね!」
「マンガ?」
「いえ、気にしないで下さい。それより、早速クエストを受けましょうよ!」
興奮したナツミに手を引かれてクエストカウンターに向かう。
三十分ほど列に並んだ頃。ようやく俺たちの番が訪れた。
「あの、冒険者登録をしたいですっ。私はナツミで、こちらの人はテバさんです!」
「はい。それでは手続きをしますので、この板に手を置いて下さい」
そう言って受付のお姉さんは、人の手が描かれた石版を取り出した。この石版に魔力波形を登録する事で、過去に犯罪を犯したり、不法入国した人間を弾けるらしい。
「ナツミ、どうしたんだ? そんなに暗い顔をするなよ」
「ハイテク……ファンタジーなのに、ハイテク……」
「何を言ってるか分からんが、早く登録しろ」
後ろに並んでる強面の冒険者が怖いんだよ。絡まれでもしたら心臓が飛び出る自信がある。
「はい。これにて登録完了です。緑色のクエストボードに初心者向けのクエストがありますので、確認してくださいね」
説明を受けて冒険者カードを受け取る。このカードで買い物できたり、クエストの報酬が振り込まれるらしい。
商業ギルドや工業ギルドでも同様のカードが貰えるが、魔王軍討伐の報酬金がそのまま貰える冒険者ギルドに登録した方がお得なのだ。討伐できるとは思ってないがな。
「テバさん、見てください! イノシルトの討伐が初心者にはおすすめらしいですよ!」
いつのまにか復活したナツミが、一枚の紙を持ってきた。
イノシルトとは、頭が盾のような形をした猪のモンスター。奴の突進は強力だが直線移動しかしないため、初心者でも狩りやすいモンスターとして有名だ。その上、奴の頭蓋骨からスキル付きの盾が作れるため非常に人気のモンスターでもある。
まあ、上位互換のようなモンスターがいるので初心者以外は他のモンスターを狙うのだが。
「なら、早速狩りに行こうか。ナツミの戦闘力には期待してるぞ」
「――ッ! 気づいてたんですか……」
気づいたのは今だけどな。冒険者カードに書かれたステータスを見てしまったのだが、ナツミのステータスは俺を遥かに超えていた。自覚していないんだとすると、今よりさらに強くなるだろう。
「私が異世界から召喚された外来勇者だって事を」
「いや、そこまでは気づいてなかったけど……本当にナツミは異世界から召喚されたのか?」
今になって思いだしたが、外来勇者の特徴は黒髪黒目で特殊な能力を持っているらしい。ナツミの外見的特徴と一致する。
「私の早とちりだったみたいですね。テバさんの言う通りです」
「詳しく聞かせてくれ。話したくないかもしれないが、力になれるかもしれない」
出会った当初は深く関わるつもりはなかった。だが、ナツミが勇者ならば話は別だ。
勇者が魔王軍に殺されると、勇者の力は魔王軍側に譲渡される。逆もあるが、勇者同士は強力しなければならない。
「わかりました。ここでは話しにくいですし、クエストに向かいながら話しましょう」
俯いたままのナツミは、ポツリポツリと語りだしたのだった。