95 お任せを
おれ、一瞬にして大富豪!
なのに、まったく嬉しくないのはなぜだろう? それどころかなんの感情も湧いてこねーわ。
卓がミシミシ言っているので、魔石は魔力にして吸収し、金の延べ棒は万能空間に。ただ、金の延べ棒一本は村長に渡す。
「……タカオサ……」
「迷惑料だ。開拓資金に使ってくれ」
状況が変わった。二つの大商会と繋がりができた今、村って協力は必至だろう。人馬組を借りるかも知れない。敵対は悪手だ。
「おお、そうでしたな。村長殿にはご迷惑とご協力をおかけしました。これをお納めください」
リュウランさんがおれと同じく金の延べ棒を一本、村長に差し出した。
「ゼルフィング商会としても今回は助かりました。少ないでしょうがお納めください」
サイレイトさんも金の延べ棒を一本差し出した。
おれもやっといてなんだが、金の延べ棒一本を平気で差し出すとか頭おかしいんじゃねーの!? 金の延べ棒一本で村は一年やっていけるぞ!
あまりのことに頭がついていかない村長。そのままポックリいくなよ……。
「では、優月と朝日をお渡ししましょう。あ、魔石は大丈夫なので?」
なにか大量に出しましたが。
「はい、大丈夫です。魔石はまだあるので」
どんだけだよ。ほんと、怖いわ、この人たち……。
「あ、あの、タカオサ様。今さらなのですが、その乗り物は、わたしたちが操れるものなのでしょうか? 技術がいるとか、魔力がいるとか……」
「大丈夫です。一晩あれば基礎は教えられます。眠りながら学習できる魔道具がありますので」
操縦法なら脳に負荷はかからないだろうし、そう難しい作りにはしてない。勘のいいヤツなら催眠学習しなくても三日くらいで覚えるだろうさ。
「家から持ってきますので、行商隊を退けて場所を開けててください」
開けられるかわからんが。そっちでなんとかして。
「それなのですが、タカオサ様にご相談したいことがあります」
立ち上がろうとしたらセイロさんが口を開いた。
よろしいのかとリュウランさんを見れば、構いませんとばかりに軽く頷いた。
「三賀町として依頼をお願いしたいのです」
三賀町として?
と副事官殿に目を向けた。町としての依頼ならこちらからが筋だろうと。
「情けないが、三賀町としては最華町への通行を再開させることが優先なのだ」
まあ、町は国に属し、流通を回復させる責任がある。町としても流通を再開しなければ権威がなくなる。なにを置いても優先させるだろう。
だが、町のことも疎かにはできない。米で成り立っている三賀町が港が使えないでは話にならない。秋まで開通させなければ町はもちろんのこと、周辺の村も滅んでしまうだろうよ。
「海竜の退治、ですか?」
まあ、予想はしていたが、まさか、それをおれに依頼してくるとまでは想像……はしたな。金鳳花に見られたときに……。
「はい。通常の傭兵では相手になりませんから」
海の生き物だしな。
「これから輸送機を作らなければならず、家の仕事もあります。ましてや何匹いるかわからない海竜退治で縛りつけられるのも困ります」
海竜は美味しい獲物だが、広大な海を泳ぐ生き物をすべて退治しろと言うのは滅茶苦茶だ。下手に受けて町に縛られるのは困るのだ。
「さらに、必要経費がこちら持ちとかも困ります。いつ襲ってくるともわからず、こなかったらタダ働き。支払いはしない。とても受ける気にはなれませんよ」
町を拠点にしている傭兵ならまだ利はあるだろうが、通わなければならない身では損しか考えられない。
「もちろん、タカオサ様に不利になるような依頼はしません。春目様」
「三賀町を預かる曽井サダイ様よりの書状である。依頼を受け、海竜を退治した場合、タカオサ殿に姓を名乗ることを許し、土地開拓の許可を与える」
副事官殿のことばに目を見開いてしまった。
一言で言うなら破格。名は買えるとは言え、町長の名を許すとなれば大家の仲間入りであり、たぶん、村長クラスになったってことであり、土地開拓して得た収入はおれのもの。流通路を繋げなければ治外法権。好きにしていいってことだ。たぶん。
国に従う気はない! とか言えるほどアウトローではないし、逆らうほどの気概はない。国が守ってくれるなら税金は払いますって気持ちはある。前世のおれは、だけど。
商売をするのも苗字はあったほうがいいし、身分証明があるなら大陸にもいける。
苦労はあるだろうが、こんな恵まれた状況がまた訪れるとは限らない。ここは受けておくのが吉だろう。今なら大抵の要望は通りそうだしな。
「引き受ける条件として、拠点を築く許可と傭兵団を組織する許可をいただきたい。せっかくなので海に長けた傭兵団を創りたいと思います」
三賀町に海に関する法があるかは知らないが、漁業権はあったりする。海竜退治にかこつけて海の幸をいただきましょう。
「わかった。許可しよう」
話のわかる人でなにより。
卓に置かれた書状を受け取った。
「万事、このタカオサめにお任せを」